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第2回 健康予防医療賞 受賞者

過去の受賞者

遠山椿吉記念 第2回 健康予防医療賞 受賞者発表

このたびは、たいへん多くの優れた研究テーマが応募されましたが、選考委員会による厳正なる審査を重ね、当法人医療法人合同の経営会議にて協議した結果、栄えある第2回遠山椿吉賞受賞者、および特別記念賞として顕彰すべき受賞グループを決定いたしましたので、発表いたします。

受賞された方々には、こころよりお祝い申し上げます。

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(副賞:100万円)
受賞者
白木 正孝(成人病診療研究所 所長)
テーマ名
「骨粗鬆症診療体制の確立にむけての臨床疫学コホートの構築
(Nagano Cohort研究)」

研究成果の概要

  
(副賞: 100万円)
受賞者
久山町研究グループ  研究者名簿 >>
(代表:清原 裕/九州大学大学院医学研究院環境医学分野)
テーマ名
「生活習慣病の時代的変遷およびその現状と課題に関する疫学調査
 (久山町研究)」

研究成果の概要

   

研究成果の概要:遠山椿吉記念 第2回 健康予防医療賞

受賞者
白木 正孝(成人病診療研究所 所長)
テーマ名
「骨粗鬆症診療体制の確立にむけての臨床疫学コホートの構築(Nagano Cohort 研究)」

背景

骨粗鬆症は我が国には女性を中心に約1000万人の患者が存在すると推定されているものの、それら予想される患者数の約20%程度しか治療されていないとされる。従って、本症による骨折、なかんずく大腿骨近位端骨折は欧米とは異なり、我が国では経年的に増加を続けている。これは未だに本疾患のもつ臨床的意義が医療職のなかでさえ、十分に認識されていないことと、本症に対する診療体制が未だに整備されていないことを意味している。従って、本症のもつ臨床的意義を示し、診療手段の有効な利用方法を示しこの疾患に対する関心を励起するとともに、医療資源の有効な活用方法を構築しなければならない。

骨粗鬆症の疾患としての定義と診断方法についてはそれぞれ、2001年のMIHコンセンサスおよび日本の骨粗鬆症診断基準の設定(Orimo H, et al Diagnostic criteria for primary osteoporosis: year 2000 revision. J Bone Miner Metab 19:331-337, 2001.)、さらには本格的骨粗鬆症治療薬であるアミノビスホスホネートの上梓などにより診療環境は大幅に進歩した。しかし骨粗鬆症の病因の複雑さや、合併する疾患の複雑さ故に治療内容は一律に行えるものではなく、個々の患者ごとに診療内容は微妙に変更しなければならない。いわゆる治療のテーラーメイド化である。

しかし、治療方法の個別化を行うには、我々が知り得た骨粗鬆症の病態と治療内容は全く不足していると言える。故に、我々は骨粗鬆症の病因、病態および治療効果とその予後にいたるまで、幅広い臨床エビデンスを蓄積し、医療のテーラーメイド化を達成しなければならない。

以上のような現状認識から骨粗鬆症の診療体制の確立をはかるために、成人病診療研究所においてはNagano cohort研究を約20年間にわたり維持管理している。

調査・研究のねらい

Nagano cohort研究: 本コホートは成人病診療研究所を訪れ、同意を得られた患者集団よりなる。本コホートの最大の特徴は一般の疫学調査のような一般住民集団ではなく、その構成員が何らかの疾患を有している患者集団であるという点である。

このため本集団から得られた知見はより診療所レベルの患者の管理に役立つことが期待される。また一般住民集団よりは骨粗鬆症の形質発現(骨折)がより高度かつ高頻度に発現するため、一つには骨折リスクの抽出がしやすく、二つ目には薬物効果がより少ない症例数で推定することができる。

このような集団での知見は従来、患者選択バイアスが大きすぎて、一般化することが困難であると考えられていたが、基本的な形質発現に関しては疫学集団と全く同一であることから最近ではより実臨床に近い集団として、諸外国でも認知されつつある。この集団を用いて、骨粗鬆症の予後調査、骨折危険因子の抽出、治療方法の評価などが行われている。

また本コホートを用いて、全国レベルの臨床研究の基礎調査が行われ、その業績は骨粗鬆症学会主導で行われているJOINT(Japanese Osteoporosis Intervention Trial)研究のデザインの作成の基礎となった。本コホート研究は1993年より開始され現在でも症例の登録、経過観察が継続中であり、約4000例余の症例が登録されている。

調査・研究の成果

  1. 骨粗鬆症の臨床的意義に関する疫学研究
    Nagano cohortの長期観察結果から、我々は骨粗鬆症の予後について検討を行い、この疾患が死亡率を増加させ、不動化を惹起することを報告した。これらの事実は骨粗鬆症が単に骨が弱くなった疾患ではなく、骨が弱いことそれ自体、または骨が弱くなる疾患の存在と共存することにより、骨折を経て不動化が生じ、ついに死亡にいたることを示しているものと考えられた。
  2. 骨粗鬆症の骨折リスク解析

    死亡にせよ不動化にせよ、その基本には骨折が関与しているので、骨粗鬆症の形質として最も重要なアウトカムは骨折であると考えられる。このため、骨折発生リスク解析を行い、年齢、骨密度、既存骨折の存在という疫学集団でも同定される骨折リスクに加え、以前より骨代謝マーカー、腰痛の存在とともに、遺伝体質、コラーゲンの異常架橋および栄養因子としてのビタミンK不足も骨折リスクとなることを明らかにした。

    これらの成果から骨折と不動化の10年リスクを予測する予測式を考案し、この計算式は広く公開されている。また特に異常架橋(糖化架橋)が骨折リスクとなるという我々の報告は骨粗鬆症性骨折のなかに新しい疾患発生機序を付け加える世界的な端緒となった。さらに異常架橋が存在する骨においてはビスホスホネートの骨折予防効果が十分に発揮されないことも報告した。

  3. 骨粗鬆症の遺伝体質

    このような骨折リスクの基本的要因は骨密度の低下であるが、この要因には遺伝体質が深く関与していると考えられている。Nagano cohort研究参加者からは全員、文書同意の取得のもと、東京大学老年医学教室との共同研究下に遺伝子解析を行っている。現在までに判明した骨密度規定遺伝子はLRP遺伝子多型などの他に以前にはEstrogen receptor遺伝子多型(Kobayashi S, et al. Association of bone mineral density with polymorphism of the estrogen receptorgene. J Bone Miner Res 11: 306-311, 1996.)、Apo E遺伝子多型(Shiraki M,et al. Association of bone mineral density with apolipoprotein  E phenotype. J Bone Miner Res 12: 1438-1445, 1997)なども報告し、これらの遺伝子多型はいずれもその後の追試で骨密度への寄与があるものと認定された。

    なかでもLRP遺伝子はその後、ゲノムワイド解析においても確実に骨密度の高低に関係していることが確認された。さらにMTHFR遺伝子多型は骨折との関連が強くみられた。この遺伝子のcommon variantであるTT型はhomocysteine代謝が遅延するため、血中にこのものが蓄積しやすく、これが骨質を劣化させるためではないかと推論される。

  4. 骨粗鬆症の栄養

    遺伝体質とならんで、骨折発生に重要な要因は栄養素の不足である。カルシウムの不足に関しては、すでにカルシウムバランスが骨粗鬆症では負に傾いていることを2001年に報告したが(Uenishi K, et al Calcium requirement estimated by balance study in elderly Japanese people. Osteoporosis Int 12: 858-863, 2001)、最近はビタミンKの不足が骨密度の大小にかかわらず骨折の要因となることを報告した。ビタミンKの不足は加齢とともに進行し、同じビタミンKの血中濃度があっても高齢者のほうがビタミンK不足のマーカーであるund6rcarboxylated osteocalcin(ucOC)が高値であることを報告した。

    ビタミンKの同属体であるメナテトレノン(Vitamin K2)を投与すると、このビタミンKの不足が解消されること、およびビタミンKが不足していると骨粗鬆症治療薬であるビスホスホネートの骨折抑制作用が十全に発揮されないことなどを報告した。

  5. 骨粗鬆症の治療に関する医師主導型研究

    骨粗鬆症の診断方法は2000年にOrimoらにより確立され、骨折の診断方法もFukunagaら(Fukunaga M, et al. Absolute height reduction and percent height ratio of the vertebral body in incident fracture in Japanese women. J Bone Miner Metab 22: 104-110 2004.)により確立されたため、骨粗鬆症の診断とアウトカムの判定に関しては一定のコンセンサスが得られたものと考えられた。治療方法についても従来の活性型ビタミンD3、ビタミンK2、カルシトニン製剤に続いてビスホスホネート製剤が開発され、この製剤の強い骨折発生抑制作用により、現在ではビスホスホネート製剤が第一選択薬となっている。

    しかし、多くの臨床医がこの薬剤の単独投与のみでは十分な治療効果が得られないと考えており、臨床の現場ではなんのエビデンスもないにもかかわらずビスホスホネート製剤と活性型ビタミンD3製剤が併用されている。一般に薬物の併用に関しては、併用のメリットとデメリットが厳しく問われなければならないが、なんのエビデンスもないまま、併用が行われていることは問題である。そこで日本骨粗鬆症学会では折茂肇先生を会長とした臨床研究グループであるA-TOP(Adequate Treatment of Osteoporosis)研究会を組織し、この組織で併用療法に関する医師主導型研究を行うこととした。

    受賞者はこの研究会事務局員として研究会の組織の構成、研究計画の立案、アウトカムの評価方法の確立に関わった。すなわち、骨折を評価項目とした場合の症例数の予測、骨折以外の評価項目であるQOL指標(JOQOL)のvalidation、さらには研究計画全体の立案とその報告に関わった。第一のプロトコルはカルシトニン製剤の検討であったが、このプロジェクトはカルシトニン製剤そのものの投与方法が変更されたため、途中で断念し、第二のプロトコル(JOINT 02)として、アレンドロネート単独群とアレンドロネートと活性型ビタミンD3併用群の骨折やQOLに対する優越性試験を行うこととなった。投与期間二年、2000名の患者が登録され、骨折発生やQOL指標の推移が観察された。その結果はつい最近、骨折を指標とした結果の報告がなされ、併用群は早期の脊椎骨折の発生、高度の脊椎骨折変形がある、または多数の既存骨折のある例で単独群に比べ、有意に骨折を抑制した。しかし最も興味深かったことは荷重長管骨骨折を併用群が高度に有意に抑制したことであった。副作用の発現には両群で差がなかったことから、ビスホスホネートと活性型ビタミンD3の併用は試みる価値のある治療方法であることが証明された。

【 受賞対象業績の概要説明
特に独創性、将来性、有効性、経済性、貢献度等について

本研究は第一に臨床疫学研究のための大規模コホートを1993年から現在まで構築および運営し、骨粗鬆症診療のための基礎データを提供し続けたことに独創性がある。一般住民を対象とした疫学集団は多く存在するが、患者集団を登録した疫学研究は海外にも事例がなく本研究が端緒である。結果的に患者集団から得られた結果も疫学集団から得られた結果と基本的には同一であり、ただ患者集団のほうがoutcomeの出現頻度が多く、さらに疫学集団ではみられない危険因子がいくつか抽出できた。

この集団からの知見は医師主導型研究の構築に向けての基礎データとなり、JOINT研究の計画段階でNagano cohortの研究結果は多大な貢献をした。

さらに治療方法の吟味を行った結果として、ビスホスホネート治療において、その効果をより効率よく発揮させるための方策のいくつかを提案できたことは本剤の有効性を確保するために寄与しうると考えられた。このことは医療経済的な観点から評価しうる。

第二にこれらの研究を介して、臨床におけるエビデンスを獲得するためのA-TOP研究会を組織し、その組織によりエビデンスを取得できたことは画期的なことで、今後ともこの組織における医師主導型研究は継続させうるし、事実現在でも二つの研究(JOINT 03, 04)が稼働している。この研究会の将来性は高い。

 

研究成果の概要:遠山椿吉記念 第2回 健康予防医療賞 特別記念賞

受賞者
久山町研究グループ (代表:清原 裕 / 九州大学大学院医学研究院環境医学分野)
テーマ名
「生活習慣病の時代的変遷およびその現状と課題に関する疫学調査(久山町研究)」

背景

死因統計によれば、過去世界で最も高いレベルにあったわが国の脳卒中死亡率は1970年代から減少傾向に転じ、現在では欧米諸国と肩を並べるまでに至った。虚血性心疾患の死亡率(年齢調整)も脳卒中ほど顕著ではないが同様の傾向が認められる。このような動脈硬化性疾患の死亡率減少は、皮肉にも動脈硬化性疾患、悪性腫瘍、認知症の罹患リスクが高い高齢者の大幅な増加をもたらしている。一方、わが国では、戦後のめざましい経済成長によって国民の生活・医療水準が大幅に向上して食生活を含む生活習慣が欧米化し、肥満、脂質異常症、糖代謝異常などメタボリックシンドロームを構成する代謝性疾患の急増という新たな健康問題が生まれている。このような社会・生活環境の変動は、動脈硬化性疾患や悪性腫瘍とその危険因子にも大きな変化をもたらしたと推察される。

調査・研究のねらい

受賞者が代表を務める久山町研究は、福岡県久山町の地域住民を対象とした50年にわたる生活習慣病の疫学調査である.この町の年齢・職業構成、栄養摂取状況は日本の平均レベルにあり、町住民は典型的な日本人のサンプル集団といえる。この町では1961年より時代の異なる4つの集団を設定し、ほぼ同じ方法で追跡している。いずれの集団も健診受診率が高く(78~90%)、各集団の脱落例が2名以下と徹底した追跡調査がなされている。また死亡者を原則として剖検し、その死因とともに隠れた疾病の有無を詳細に検討している(通算剖検率80%)。

つまり、各集団の健診・追跡調査の成績はバイアスがほとんどなく、この地域における各時代の生活習慣病の実態やその動向を正確に反映していると考えられる。また、久山町では、1985年から65歳以上の高齢者を対象に認知症の追跡調査が行われており、さらに2002年に生活習慣病のゲノム疫学研究が開始された。久山町研究では、わが国の一般住民における生活習慣病の時代的変化と現状を検討し、現代の中高年の健康問題を明らかにしている。

調査・研究の成果

  • 久山町研究の時代の異なる集団の追跡成績を比較し、時代とともに高血圧治療の普及により脳卒中罹患率が有意に低下したことを明らかにした。しかし、肥満や糖尿病など代謝性疾患の増加によって高血圧治療の予防効果が相殺され、虚血性心疾患の罹患率は低下しなかった。
  • 高血圧および肥満、糖尿病、脂質異常症、メタボリックシンドロームなど代謝性疾患が脳卒中および虚血性心疾患の罹患・死亡に与える影響を疫学的に解明した。
  • わが国の地域住民では、慢性腎臓病が時代とともに増加し、動脈硬化性疾患の重要な危険因子として台頭していることを実証した。
  • 75g経口糖負荷試験を基盤とした疫学調査において、近年急増している糖尿病および耐糖能異常の正確な頻度を明らかにし、糖尿病とその新たな合併症である悪性腫瘍および認知症との関係を報告した。
  • 高齢者認知症の疫学研究において、時代とともに認知症、とくにアルツハイマー病の有病率が有意に増加していることを明らかにし、その危険因子を解明してきた。
  • わが国で初めてゲノム疫学研究を立ち上げ、脳梗塞、潰瘍性大腸炎などの新たな疾患感受性遺伝子を発見した。

【受賞対象業績の概要説明

特に独創性、将来性、有効性、経済性、貢献度等について

  • 久山町研究は、偏りのない地域住民を対象とした50年にわたる疫学研究であり、その精度は世界のトップレベルにある。
  • 久山町の認知症の疫学調査はわが国で唯一の認知症の追跡研究であり、超高齢化社会を迎えたわが国において極めて貴重な情報を提供している。
  • 久山町研究はわが国で最初にゲノム疫学研究を開始し、脳梗塞の関連遺伝子の発見をはじめとする成果を生み出している。将来的に、生活環境要因と遺伝的要因の両面から生活習慣病の成因を解明し、疫学研究をオーダーメイド予防のツールとして発展させることが期待される。
  • 久山町研究の成果は、様々な臨床系の学会のガイドライン策定に活用されるとともに、わが国の公衆衛生学の発展に寄与している。
  • 以上の成果は、国民の保健・医療・福祉の向上をもたらし、わが国の医療費の削減に貢献していると考えられる。

 

久山町研究 研究者名簿(1961~2011)

勝木司馬之助 蓮尾 裕 有馬久富 吉田大悟
尾前照雄 梁井俊一 田中圭一 小澤未央
藤島正敏 屋宮央哉 中村秀敏 安田美穂
飯田三雄 清原 裕 湧川佳幸 野田佳宏
北園孝成 益田順一 浅野光一 荒川聡
高野朔太郎 輪田順一 前淵大輔 朝隈朋子
廣田安夫 河野英雄 志方健太郎 岸本裕歩
赤染種彦 梶原英二 尾石義謙 柴田舞欧
竹下司恭 加藤 功 何 幸子 橋本左和子
武谷伸 野見山 賢介 川村良一 秦 明子
中野昌弘 大村隆夫 米本孝二 伊豆丸 堅祐
三井久三 新川 淳 宮崎正史  
田中精二 岩本廣満 関田敦子  
上月武志 中山敬三 福原正代  
中村定敏 大森 将 土井康文  
仲村吉弘 吉武毅人 二宮利治  
池田壽雄 久保充明 池田文恵  
日吉雄一 篠原規恭 秦淳  
酒井正 下野淳哉 永田雅治  
上田一雄 今村 剛 向井直子  
喜久村 徳清 清水治樹 飯田真大  
岡田光男 谷崎弓裕 平川洋一郎  
劉 会中 山縣 元 小原知之  
志方 建 近藤英樹 後藤聖司  
藤井一朗 大久保賢 碓井知子  

 

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