農林水産省レギュラトリーサイエンス新技術開発事業
肉用牛農場における腸管出血性大腸菌O157の保菌と分子疫学解析

※平成27年度事業年報トピックス掲載
食と環境の科学センター 調査研究室

1.はじめに
 腸管出血性大腸菌はベロ毒素(志賀毒素)と呼ばれる毒素を産生する病原大腸菌の一つである。多くの血清型の大腸菌が含まれるがO157はもっとも代表的な血清型である。この菌が感染すると下痢(下血)と腹痛の症状を呈し、重症化する。まれに溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こして、死亡することもあり、重要な病原菌の一つである。
 この腸管出血性大腸菌は牛をはじめとした反芻動物が保菌していることが知られており、生産段階である肉用牛農場において、腸管出血性大腸菌の汚染を低減化する技術の開発は安全な食肉の生産に不可欠である。我々は農林水産省レギュラトリーサイエンス新技術開発事業として肉用牛農場のO157汚染実態の把握や汚染伝播の解析を実施した。

2.肉用牛農場での腸管出血性大腸菌O157の汚染実態
 肉用牛農家には仔牛を生産する繁殖農家、仔牛を成牛に育てる肥育農家および繁殖と肥育の両方を行う一貫農家に分けることができる。この研究事業では繁殖、一貫を1農場ずつ含む27農場、271頭の牛直腸便からの腸管出血性大腸菌O157(以下O157)の汚染調査を実施した。また、繁殖農家(T農場)の12頭を対象に、2週間に一度、6か月間にわたり13回の継続的な汚染調査、そして繁殖、肥育、および一貫農場それぞれ一か所で農場環境として飼料、水、敷料(牛の寝床に敷くもので、稲わらやもみがら、おがくずなど)、ハエ、土壌の調査を行った。
 O157が陽性となった農場は、27農場中12農場(44%)、個体別では271頭中44頭(16%)であった(表1)。


 繁殖農家での継続的な汚染調査の結果、13回の調査のうち5回O157が検出された牛が2頭、3回検出は2頭、2回検出は6頭、1回検出は2頭であり、全ての牛から少なくても1回はO157が検出された。そして、農場環境調査では敷料1件、土壌1件およびハエ3件からO157が検出された。

3.分子疫学解析
 検出されたO157菌株はパルスフィールド電気泳動(PFGE)法およびIS-Printing Systemによる分子疫学解析を実施した。PFGE法はO157菌株のDNAの鎖を制限酵素というハサミで切断し、得られたDNA断片の泳動パターンを比較する方法である。IS-Printing Systemは32ヶ所のInsertion Sequenceを含む36遺伝子の有無でO157菌株を比較する方法で、本研究では得られた結果を12桁の数値に置き換えて解析を行った。
 12農場で検出されたO157は1農場(N農場)を除き、農場ごとに同じ遺伝子型を示し、農場内では単一由来のO157による汚染であることが確認された。また、同一の遺伝子型が2農場(SおよびT農場)で認められたが、他の農場は異なる遺伝子型であり、異なる由来の菌株であった(図1)。


O157が陽性となった12農場のうちの8農場の結果を示した。
2株以上検出された農場B、G、H、S、Tでは農場内で同じ遺伝子型の菌による汚染が確認できた。
農場Nは異なる2つの遺伝子型が確認された。農場SとTでは同じ遺伝子型であったがそれ以外は農場間では異なる遺伝子型であった。農場SとTはIS-Printing Systemでは異なる遺伝子型であった。

 繁殖農場において5か月間継続的に検査を行ったが検出されたO157はすべて同じ遺伝子型であり、長期間にわたって同一型O157が農場を汚染していることが明らかとなった。一方、1か所の肥育農家(G農場)では初回、5か月後、さらに2年後の3回の調査を行い、O157が検出されている。それぞれ検出されたO157は異なる遺伝子型(C、D、E)であった(表2)。農場環境調査において検出された床敷、土壌、ハエから分離されたO157は同時期に牛直腸便から分離されたO157とほぼ同じ遺伝子型を示し、肉用牛を汚染しているO157は 糞便⇔環境 で相互汚染が示唆された(表2)。


4.まとめ
 農林水産省が2007年に実施した腸管出血性大腸菌O157およびO26の全国的な調査では農場別で27%、牛の個体別では8.9%であり、本調査結果の検出率はやや高い傾向であった。ここで検出されたO157は農場内では同じ菌株、農場間では異なる事例がほとんどであった。また、土壌や敷料、ハエなどから検出されたO157も農場で汚染している菌株と同一であり、O157の汚染は農場内で広がっているが他の農場との交差汚染などは認められなかった。繁殖農場で同じO157が長期間汚染していたが、肥育農家ではO157の菌株が入れ替わっていた。繁殖農家では母牛は長期間同じ農場にいるが、肥育農家では導入された仔牛が育てられ出荷され、次に新たに他農家からの仔牛が導入されることから肉用牛のO157は仔牛を生産している繁殖農家の影響を受けていると考えられた。

和田真太郎 [博士(学術)]


 

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