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高圧処理によるカキ中のノロウイルスの不活化効果

トピックス : 食品等の検査

2018年6月8日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
微生物検査部 技術専門科長 鄒 碧珍

はじめに

ノロウイルス(NoV)は冬季の感染性胃腸炎および食中毒の主要な原因ウイルスです。厚生労働省の「平成28年食中毒発生状況概要」では、食中毒発生件数1,139件中31%が、患者総数20,252人中56%がNoVによるもので、食中毒の原因物質としても最上位を占めており、その対策が食品衛生上大きな課題となっています。

その中で、カキを介するNoV食中毒事例の割合は依然高く推移しており1)、リスクを低減化するため、カキ等の二枚貝のNoVを不活化することは重要です。

ノロウイルスの不活化とは

食中毒細菌を死滅させることを「殺菌」と言いますが、ウイルスは細菌の仲間ではないので、通常は「殺菌」の代わりに「不活化」が用いられます。意味は「殺菌」と同じでウイルスを死滅させることです。ただし、すべてのウイルスを死滅させているかは問いません。

ノロウイルスの不活化方法

NoVの不活化方法として加熱、紫外線、pH等物理化学的な方法や次亜塩素酸ナトリウム、アルコール類等の消毒による方法が知られています。NoVはインフルエンザウイルスのような脂質を含む糖蛋白質からなる被膜(エンベロープ)を持たないため、一般的な消毒用アルコール製剤があまり効きません。

厚生労働省ではNoVの不活化の最も確かな方法として、塩素濃度200 ppmの次亜塩素酸ナトリウム処理(清浄表面に対して)と85~90℃で90秒以上の加熱処理を推奨しています。カキに汚染したNoVを不活化する確実な方法は加熱ですが、カキの身は加熱変性し、生の状態ではなくなります。

近年、加熱に代わるカキ中のNoVの不活化法として高圧処理(Hydrostatic Pressure Treatment)が注目されています。高圧処理とは液体中で200~600MPa程度の圧力を加えることにより殺菌する方法です。本法の大きな特徴は、蛋白変性が起こりにくいことで、カキの身の状態に比較的影響を与えずにウイルスや細菌等の微生物を不活化することが可能です。

高圧処理によるカキ中のノロウイルスの不活化効果

海外ではNoVを添加した試料を用いた高圧処理によるNoVの不活化に関する研究が米国を中心に数多く行われています。高圧処理によるNoVの不活化に関するデータを表1にまとめました1)

高圧処理による不活化効果は加える圧力および保持時間、NoVの遺伝子型により異なり、高圧処理を行う際のNoVが存在する温度にも影響を受けるようです。

日本国内では農林水産省が、二枚貝の衛生管理対策の一つとして導入されている高圧処理が、生物学的に蓄積したカキ中のNoVの低減に有効かどうかについて調査・検討するため、平成28年度に微生物リスク管理基礎調査委託事業(二枚貝高圧処理)を実施し、私ども東京顕微鏡院が受託試験機関として本事業に参加しました。本事業の調査は二種の汚染カキを用いて実施しました。

一つは、人為的にNoVで汚染させたカキを高圧処理し、NoVが低減できるかを検証しました。もう一つは、国内の養殖場で生産されたNoVに汚染したカキを高圧処理し、NoV低減に有効かを検証しました。なお、NoVによるリスクをより正確に把握するために感染性を有するNoVだけを検出する検査方法(感染性推定遺伝子検査法)を採用しました。

その結果、400MPa、5分間の高圧処理により人為的に汚染したNoV濃度を100分の1程度に低減できることが判りました2)。養殖下のカキでは、加圧前のNoV濃度が102~103コピー/g程度と推定されましたが、400MPa、5分間の高圧処理後、NoVは検出されませんでした3)

これらの調査結果から、高圧処理はカキ中のNoVの不活化に有効な処理方法であることが証明されました。今後二枚貝の食中毒のリスク低減対策の一つとしてカキ生産現場での高圧処理の実用化が期待されます。


参考文献

1)野田 衛. 二枚貝を介するノロウイルス食中毒の現状と対策. 日本食品衛生学雑誌, 2017;58:12-25.

2) Imamura et al. Effect of High-Pressure Processing on Human Noroviruses in Laboratory-Contaminated Oysters by Bio-Accumulation Foodborne Pathog Dis. 2017;14:518-523.

3) Imamura et al. Effect of High-Pressure Processing on a Wide Variety of Human Noroviruses Naturally Present in Aqua-Cultured Japanese Oysters. Foodborne Pathog Dis. 2018; in press.

 


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