健康食品を巡る今を考える

2011年2月
財団法人東京顕微鏡院 豊海研究所 所長 安田和男

健康食品市場規模拡大の背景

食品は人の生命・健康維持に大きな影響を与え、身体の恒常性(ホメオスタシス)を維持する働きがあります。我が国の平均寿命(2009年)は男性79.59歳、女性86.44歳であり、総人口に占める高齢者(65歳以上)の割合は、1980年には9.1%でしたが、出生率の低下と平均寿命の伸びで、2000年には17.3%、2010年には23.1%に至り超高齢社会となりました。

そこで近年は、生活様式の変化や健康志向を反映して、通常の食品より健康によいとするものや、何らかの付加価値がついた食品を求める傾向が強く見られます。すなわち食品は単に種々の成分から構成された食物であるというだけでなく、健康に対し期待された効果や作用が十分に発現できるような機能性成分を含有するものであることが求められるようになりました。

このような健康志向の高まりの他、規制緩和の推進などを背景に、機能性成分を含有するいわゆる健康食品やサプリメント、特定保健用食品などの製品の市場規模はなお一層拡大することが予想されます。また、代替医療やセルフメディケーションの概念が広く浸透し、病気の治療、健康の維持・増進のために、そして手軽さゆえ、安易に健康食品を購入する消費者が増えています。

健康食品の抱える問題点

一方、健康食品は明確には定義されておらず、一般には「健康に対し、何らかの良い効果を期待できる食品」と考えられています。そのため、健康への効果や栄養性についてのみ強調されているものが多く、最も重視すべき安全性の面については不確かなものが多いようです。原料にこれまで食用にした経験のない動植物を使用したものもあり、有害物や有毒物の存在が懸念され、濃縮エキスでは特定成分の過剰摂取から人への健康影響が危惧されています。

健康食品の安全性・有効性に関しては、多くは伝承的、歴史的に言い伝えられてきたもので、科学的根拠は乏しいものが多いと思われます。健康食品の各種素材のうちには、臨床的な研究が一部行われ生体への有効な効果が明らかにされているものもありますが、その素材を利用した製品がそのまま同様の効果を保有するとは限りません。

そして製品の安全性は、品質や規格が適正に守られていることが基本です。すなわち最近の健康食品による健康被害事例からわかるように、有効性に大きな期待を抱くあまり安全性を軽視し、その結果利用者に思わぬ健康影響を与えることを肝に銘ずる必要があります。また安全性を考える上では形状も重要な要素です。錠剤やカプセル製品では特定成分を過剰摂取してしまう懸念があります。製造過程で有効成分以外の有害成分が濃縮される心配もあります。また、効果を高めるために利尿作用、下剤作用、食欲抑制作用などを有する医薬品成分が意図的に添加された違法な製品も見つかっています。

さらに、注目すべき問題は、生理機能を有する成分を含む多種多様な健康食品と医薬品との相互作用が懸念されることです。
一部の食品については、研究も進み、薬剤の効果を昂進させたり、減じたりするような相互作用が解明されつつあります。これからの超高齢社会では健康食品も医薬品も使用が増加するうえ、多くの薬剤を併用する現代医療では薬物間の相互作用だけでなく、薬物・食品間における相互作用も重要な課題になるといえます。

健康食品を適正に利用するために

健康食品を適正に利用するには、使用者(消費者)の食生活やライフスタイルに合わせた商品の選択と共に、表示・広告やインターネット情報の正しい読みとり、含有成分が自身にとって補給する必要のあるものかの判断など、消費者も製品を見極める確かな目を養う必要があると考えます。

なお、(独)国立健康・栄養研究所の“「健康食品」の安全性・有効性情報のデータベース”厚生労働省の“「健康食品」のページ”東京都の“健康食品ナビ”などのウェブサイトは、健康食品の安全性や有効性、注意喚起情報、被害事例、利用のポイントなどがわかりやすく提供されており、大変有用であると思われます。

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