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今話題のマラチオン

トピックス : 食品等の検査

2014年1月15日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
豊海検査事業部 担当理事 安田和男

 群馬県の食品製造事業者が製造したミックスピザ、コロッケ、フライなどの冷凍食品から高濃度の農薬が検出され、連日新聞やテレビなどのマスコミを賑わしています。いまだ混入原因が解明されないことや、回収対象商品の多くが回収できてないことから、消費者の不安も解消されていない現状です。
 当該事業者による自主回収の報告を受け、厚生労働省は「農薬(マラチオン)を検出した冷凍食品の自主回収について」を報道発表して、自治体への自主回収製品リストの提供やマラチオンの健康影響について情報提供しています。
 また、厚生労働省は連日、全国の自治体からの資料をまとめ、「農薬(マラチオン)が検出された冷凍食品に関連する健康被害が疑われる事例について」として公表しています。1月13日現在、自治体への相談件数は2000件を超え、対象商品を食べて下痢や嘔吐など体調不良になったとの届出は2500人に達しています。なお、これまでのところマラチオンが検出された事例は見つかっていません。
 ここでは、検出された有機リン系農薬である「マラチオン」について、その物理化学的性質や毒性、残留基準値などを解説します。

 マラチオンとは

 マラチオンの物理化学的性質を表に示しました。(表1:マラチオンの物理化学的性質)
 マラチオンは有機リン系農薬で、わが国では農薬取締法に基づき使用が認められ、殺虫剤として穀類、野菜類、果実類等に使用されます。アブラムシ類、ハダニ類、アザミウマ類、カメムシ類等の広い範囲の害虫駆除に効果を現します。別名マラソンと称し、ホームセンターや園芸店で、マラソン乳剤(50%希釈液)として市販もされています。
 作用機序は、本物質の代謝物が昆虫類体内のコリンエステラーゼ(酵素)の活性を失活させることで、神経末端での情報伝達機能を阻害し、殺虫作用を現すと考えられています。水生生物やミツバチに対しては強い毒性を示します。

 食品中の残留基準

  食品中の残留については、食品衛生法により農作物や畜産物等に残留基準値が設定されています。主な残留基準値を表に示しました。(表2:主な食品中のマラチオン残留基準値)

  なお、今回の回収対象となったコロッケやピザなどの加工食品の残留基準値は、人の健康を損なうおそれのない量として厚生労働大臣が定めた0.01ppm(一律基準)と設定されています。
 地方自治体や検疫所によるこれまでの残留農薬検査では、小麦、とうもろこし、大豆、セロリ、枝豆などからマラチオンの残留が見られますが、1ppmを超えるものはほとんどありません。

 マラチオンの健康影響

 マラチオンによる人の中毒症状としては、吐き気、嘔吐、唾液分泌・発汗過多、下痢、頭痛などで、症状が重くなると縮瞳、筋繊維性痙攣、言語障害、意識混濁などが現れます。
 農薬のリスク評価は、動物実験等の科学的なデータに基づき、また動物とヒトの種差やヒトの個体差を考慮して、ADI(一日摂取許容量;毎日一生涯食べ続けても健康に悪影響が生じないと推定される一日当たりの量)やARfD(急性参照用量;短時間に経口摂取しても健康に悪影響が生じないと推定される一日当たりの量、)が設定されています。
 マラチオンの毒性については、FAO/WHO合同残留農薬専門家会議において評価が行われて、ADIは0.3mg/kg体重/日、ARfDは2mg/kg体重/日とされています。
 厚生労働省は、今回マラチオンが高濃度に検出された食品を体重60kgの人が食べた場合の健康影響について試算しています。それによるとマラチオンを15,000ppm(=15mg/g食品)含有するコロッケ(一個22g)の場合、約1/3個(8g)でARfDを超過し、マラチオンを2,200ppm含有するピザ(一枚93g)の場合、約1/2枚(55g)でARfDを超過するとしています。ただし、ARfDは安全側に立って設定されているため、これを超えたとしても必ずしも健康に影響を生じるものではないともしています。

  なお、食品中のマラチオンの試験は、厚生労働省告示のGC(ガスクロマトグラフ)及びGC/MS(ガスクロマトグラフ/質量分析計)を用いた方法が使用されています。

表1:マラチオンの物理化学的性質

 

構造式 マラチオン構造式
化学式 マラチオン化学式
分子量 330.3
外観 黄色~淡褐色(琥珀色)
融点 2.85℃
沸点 156~157℃(0.7mmHg)
溶解性 水;145mg/L(25℃)
有機溶剤;アルコール類、炭化水素系溶剤、
       植物油に可溶
安定性 中性水溶液中で比較的安定
酸性・アルカリ性下で加水分解
光に安定、熱で分解
表2:主な食品中のマラチオン残留基準値

 

  (ppm)
米(玄米) 0.1
小麦 8.0
小麦粉 1.2
大豆 0.5
だいこん類の根・葉 0.5
にんじん 0.5
キャベツ 2.0
ほうれんそう 2.0
たまねぎ 8.0
たけのこ 2.0
アスパラガス 8.0
くり 8.0
えだまめ 2.0
りんご 0.5
いちご 0.5
ぶどう 8.0
アーモンド 8.0
レモン 4.0
オレンジ 4.0
はちみつ 0.5
牛・豚・鶏筋肉 2.0
鶏卵 0.7
魚介類(貝類、甲殻類) 0.5

 

 


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