家畜・鶏における薬剤耐性カンピロバクター

2014年4月30日
一般財団法人 東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
調査研究室 主任 森 哲也

はじめに

カンピロバクターは、家畜の流産あるいは腸炎原因菌として獣医学分野で注目されていた菌で、ニワトリ、ウシ等の家きんや家畜をはじめ、ペット、野鳥、野生動物などあらゆる動物が保菌しています。

カンピロバクターは本菌に汚染された食品、飲料水の摂取や、動物との接触によってヒトに感染します。100個程度と比較的少ない菌量を摂取することにより感染が成立することが知られており、カンピロバクター食中毒は、わが国で発生している食中毒の中で、ノロウィルスに次いで発生件数が多い食中毒です。肉類、特に鶏肉に付着しており、レバ刺し、鶏わさなど、生やあまり加熱しないで食べる場合に食中毒を起こすことがあります。症状は腹痛、下痢(水様便、血便)発熱(38~39 度)などです。

カンピロバクターの薬剤耐性化

近年、カンピロバクターは薬剤耐性化が進んできており、フルオロキノロン系薬に対して耐性を有するカンピロバクターの出現が世界的な関心事項となっています。わが国では、動物用としてのフルオロキノロン系抗菌剤は、1990年代にウシやブタなどの家畜への使用が認められ、大腸菌症の予防・治療のためにニワトリにも広く使用されるようになりました。

これらの薬剤の家畜への使用が許可された国では、家畜からの耐性菌の分離率が急速に上昇しています。このような状況を踏まえ、アメリカ食品医薬品局(FDA)は、2000年にフルオロキノロンの家禽類への使用禁止の検討を開始し、2005年にはエンロフロキサシンの家禽類への使用を禁止しました。国内でも、フルオロキノロン耐性カンピロバクターが増えてきており、対応の必要性が議論されています。

薬剤耐性カンピロバクターの影響

カンピロバクターだけでなく、畜産分野において選択される薬剤耐性菌が、食品を介してヒトに伝播し健康に影響を及ぼす可能性について、国内外の関心が集まっています。

国際獣疫事務局(OIE)、国連食糧農業機関/世界保健機関(FAO/WHO)、欧州連合(EU)、米国等の各国際機関及び各国が、畜産食品由来の薬剤耐性菌について、リスク分析のための調査及び指針作成を行い、実際にリスク分析に取り組んでいます。さらに、国際機関を中心として、動物とヒトの両方の健康を保護する見地から、薬剤耐性の抑制及び減少のために動物用抗菌性物質の「慎重かつ責任ある使用」と薬剤耐性菌に係るさらなる情報の収集が呼びかけられています。

わが国で食品のリスク評価を実施している食品安全委員会は、農林水産省から飼料添加物又は動物用医薬品として使用される抗菌性物質によって選択される薬剤耐性菌について、食品を介してヒトに対する健康への悪影響が発生する可能性とその程度について評価することを求められており、科学的知見に基づく食品健康影響評価を進めています。

おわりに

市販鶏肉の約50%がカンピロバクターに汚染されており、そのうちの約25%がフルオロキノロン系薬剤に耐性を示すとの調査結果もあります。またカンピロバクターだけでなく、バンコマイシン耐性腸球菌や基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生大腸菌(ESBL産生大腸菌)などの薬剤耐性菌の出現も注目され、対策が検討されています。

当法人でも、食品安全委員会が実施している薬剤耐性菌の出現実態調査などに協力しています。


(参考文献等)

  • 厚生労働省HP「カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)」
    http://www.mhlw.go.jp/qa/syokuhin/campylo/
  • 三澤尚明:カンピロバクター感染症,モダンメディア,51巻3号,45-52(2005)
  • 江藤麻紀,石井良和:食肉を汚染する抗菌薬耐性菌,モダンメディア,55巻7号,179-183(2009)
  • 家畜等への抗菌性物質の使用により選択される薬剤耐性菌の食品健康影響に関する評価指針(平成16年9月30日食品安全委員会決定)
  • 古川一郎ら:市販鶏肉におけるカンピロバクター・ジェジュニの汚染状況および分離菌株の解析,神奈川県衛生研究所研究報告 No.37,24-27(2007)
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