井戸水の衛生管理

1. 井戸水による汚染事故

井戸水の汚染事故例として、茨城県神栖町での有機ヒ素汚染は痛々しく悲しい出来事で記憶に新しいのではないかと思います。茨城県は地下水が豊富で井戸水を多く生活用水として使用している県の一つです。

また、長崎県某私立大学では赤痢患者の発症がありました。幸いにして死者はでませんでしたが、これらは井戸水の不十分な衛生管理が惹起した事故です。

2. 水系感染症の特徴

建築物における衛生的環境の確保に関する法律(通称建築物衛生法)では生活用水を人の飲用、炊事用、浴用等に供することと定義しています。生活用水に何らかの原因で病原体・重金属が入り込むと水系感染症を引き起こします。それは次のような特徴を持っています。

  1. 患者発生が給水範囲と同一である
  2. 患者の発生数が爆発的である
  3. 潜伏期間が長く、致命率は低い
  4. 年齢・性別・職業等に無関係である
  5. 原因が確定されやすい

3. 飲用井戸衛生対策

成人が生理的に必要な水は、通常1.5L/日で、身体の水分量(体液)は体重の50~70%、小児は体重当たりに換算すると成人の3~4倍の水分が必要になります。そのためにも清浄にして豊富な水は人にとって欠かすことができません。

そこで、水道水については水道法に基づき国および地方公共団体が管理をしています。また、井戸水のような水道水以外の飲料水については、地下水が多種類にわたる有害物質等によって汚染されるのを危惧し、国が昭和62年に飲用井戸等衛生対策要領を通知しました。

これには、水道法、建築物衛生法の適用を受けない次の施設が該当します。

一般飲用井戸

個人住宅、寄宿舎、住宅、共同住宅等に居住する者に対して飲料水を供給する井戸等の給水施設。ただし、この個人住宅とは、専ら自己の居住の用に供給するために設置する井戸水は除かれます。

業務用井戸

学校、官公庁、病院、店舗、工場その他事業所等に対して飲料水を供給する井戸等の給水施設。

これら施設の設置者は1年に1回、水道法水質基準の10 項目(建築物衛生法の省略不可項目)とテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン等の有機溶剤を含めた検査を行い、衛生的、清浄であることを確認する必要があります。ただし、水質検査の結果、たとえ有機溶剤等有害物質が水質基準以下であっても、所轄の保健所または市町村に連絡して、検査結果について評価を受けることが好ましいと思われます。

また、学校においては、学校環境衛生の基準(学校保健法)で毎月1回定期に水質検査(水道法水質基準項目の通称、省略不可9項目)を行うことが定められています。

4. 水質検査機関

一般飲用井戸や業務用井戸の設置者が水質検査を依頼するにあたっては、公的機関または当センターのような厚生労働大臣から登録を受けた者に依頼することとされています。

5. 東京都小規模貯水槽水道等における安全で衛生的な飲料水の確保に関する条例

東京都では、飲用井戸等の衛生管理を定め、飲料水の安全と衛生を確保し、都民の健康の保持と公衆衛生の向上を図ることを目的にする条例を定め、平成16年4月から施行しています。この条例の範囲は市町村の地域とあり、東京都23区は対象外ですが、23区もこの条例に準じて独自に衛生管理を図っているものと思われます。

この条例の対象になるのは、井戸水を貯水槽にためる施設か、貯水槽の有効容量が 5トンを超え10トン以下であることが条件です。ただし、学校、病院、社会福祉施設、保育所等は貯水槽が 5トン以下でも該当します。

また、専ら一戸の住宅に水を供給する場合については、個人の責任において管理すべきとして、条例から除外されており、ご家庭の庭にあるような井戸水については自主的に水質検査を行う必要があります。この点は、厚生労働省の飲用井戸衛生対策要領の通知と同様です。

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