2014年10月31日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
食品理化学検査部 専門科長 水野 竹美
私たちは、さまざまな方法で調理された食品を毎日食べています。以前より、食品に好ましい味、香り、色、食感を加えるとともに、栄養素の消化吸収を良くするために、加熱による加工・調理を行ってきました。また、加熱は、食品の保存性や食中毒の防止など安全性を高めるために有効な手段でもあります。最近の研究で、その食品の加工中や調理中の加熱が原因となって、意図していなかった化学物質が生成し、食品に含まれることがわかってきました。アクリルアミドはそのような化合物の一つです。
アクリルアミドは、日本では劇物に指定されている物質で、紙力増強剤、土壌改良剤、合成樹脂、塗料等のポリアクリルアミドの原料として利用されています、毒性が高い物質のため、意図して食品に加えられる物質ではなく、また、食品を汚染する自然界の毒物でもありません。しかし、人の血液中から低濃度のアクリルアミドが検出され、たばこの煙の中からも発見されたことから、食品中のアクリルアミドの研究が始まりました。2002年にジャガイモなどの炭水化物を多く含む食材を高温で加熱した食品に、高濃度含まれていることが発表されました。
アクリルアミドができる主な原因は、食品中に含まれるアミノ酸の一種である遊離アスパラギンと果糖、ぶどう糖などの還元糖が、揚げる、焼く、炒る、焙るなどの調理中の加熱(120℃以上)により「アミノカルボニル反応(メイラード反応)」と呼ばれる化学反応をおこし、その過程で生成すると考えられています。また、食品原材料に含まれるアスパラギンや還元糖以外の食品中の成分が原因物質となっている可能性や、アミノカルボニル反応以外の反応経路からも生成する可能性があるとされており、アクリルアミドが出来る仕組みは完全に解明されていないため、生成抑制を含め、世界中で調査研究が行われています。
これまでの調査で、ポテトチップスやフライドポテトなどのじゃがいもを揚げたスナックや、ビスケットなどの小麦粉を原料とする焼き菓子などにアクリルアミドが多く含まれていたと報告があります。いも類や穀類以外では、もやし、アスパラガスなどの野菜類やリンゴなどの果実類もアスパラギンを多く含むため、オーブンで加熱調理されたものから検出されています。食品安全委員会では、生のじゃがいもを低温(2~4℃)で保存すると、じゃがいもに含まれているデンプンの一部が、高温で加熱した際にアクリルアミド生成の原因となる還元糖に変化し、このようなじゃがいもを素揚げ調理に用いると、強い焦げ色がついてしまい、生成するアクリルアミドの量が増加するが、煮物や蒸し物にする場合はアクリルアミドは生成しないと報告しています。炭水化物を多く含む食品を高温で加熱調理中にアクリルアミドが生成することがわかります。
私たちは、油で揚げるなどの、従来から行われている高温加熱の料理方法で調理された食品を食べていることから、アクリルアミドを食品とともに摂ってきたと考えられます。そのため、アクリルアミドが加熱食品に含まれていることが判ったあとも、各国の公的機関で、献立を変える等、特にいままでの生活を変えるよう指導しているところはありません。厚生労働省では、消費者に対して、アクリルアミドについての情報を提供するとともに、十分な果実、野菜を含む様々な食品をバランスよく取り、揚げ物や脂肪食の過度な摂取を控え、炭水化物の多い食品を焼いたり、揚げたりする場合には、あまり長時間、高温で調理しない様情報提供しています。
関連リンク
・食品中のアクリルアミドに関する情報(農林水産省)
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/acryl_amide/
・加工食品中アクリルアミドに関するQ&A(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/topics/2002/11/tp1101-1.html