国内における農薬の規制あれこれ

2015年1月5日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
食品理化学検査部 残留物質チーム 専門係長 飯田智成

 

はじめに

 今日、私達はスーパー等で豊富な野菜や果物の中から好みのものを選んで入手することができ、食生活を楽しいものにしています。一方、これらの野菜や果物中の農薬の残留が気になる人がいるのもまた事実です。それでは農薬は何のために使われるのでしょうか。

 農産物は栽培中に常に病害虫による被害や雑草による成長阻害にさらされています。それらによる品質の低下や減収を防ぐために農薬が使われます。農薬とは「農産物を害する菌、線虫、ダニ、昆虫、ねずみその他の動植物又はウイルスの防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤その他の薬剤及び農産物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる植物成長調整剤、発芽抑制剤その他の薬剤をいう。」と農薬取締法の中で規定されています。農薬はこのような目的で使用されていますが、国内での使用にあたっては有効性や環境影響、安全性等についての審査を経て農林水産省に登録されたものを使用し、規定された使用時期、使用濃度、使用回数等を守って使用する必要があります。これらを順守すれば厚生労働省の定めた農産物の残留基準値を超えることはほとんどないといえます。

 しかし、これらが順守されていなかった場合や天候などの環境条件によって農産物に残留する場合が考えられます。また、すでに使用が禁止されている農薬でも環境中に残留していたり、我が国で使用が認められていなくても海外で使用されている農薬もあります。これらが農産物に残留していることも考えられます。農産物を通して農薬が人の口に入ったり、農薬が残留している農産物が家畜の飼料として利用され、ミルクや食肉を通して人の口に入ることも考えられます。このように農薬を使用した結果、農作物などに残った農薬を「残留農薬」と言います。

残留農薬の規制

 国は食の安全性を確保するために、科学的根拠に基づいて農産物に農薬の残留基準値を設定しています。以前は残留農薬の規制は限られた農薬等について残留基準値を設定していました。これはいわゆるネガティブリスト制度と言われるもので、残留基準が設定されていない農薬等(農薬、飼料添加物及び動物用医薬品)については基本的に規制できないものでした。この仕組みは輸入農産物が増加する中で問題となっていました。これを改めるべく平成18年にすべての農薬等に残留基準が設定されることになりました。これをポジティブリスト制度と言います。この中で国内外で基準のない農薬等についても人の健康を損なう恐れがない量として0.01ppmが一律基準値として設定されました。

 残留基準は食品健康影響評価(リスク評価)により、一日摂取許容量(ADI)が設定され、これに基づいて設定された本基準、リスク評価が間に合わず、暫定的にポジティブリスト制度を導入し、事後リスク評価を行うこととした暫定基準及び一律基準により構成されています。この他、毒性が極めて強い農薬等には不検出基準が定められています。いずれも基準値を超えた場合、その農産物等の流通、販売は禁止されます。

どのようにして残留基準がつくられるのか?

 残留農薬の基準の設定にあたっては、リスク評価機関である食品安全委員会が農薬等ごとに、使用実態調査の分析結果や動物を用いた毒性試験結果等の科学的なデータに基づき、毎日一生涯にわたって摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される一日あたりのADIを設定します。この結果から、厚生労働省が農薬等により健康を損なうおそれがないよう薬事・食品衛生審議会で審議・評価し、食品ごとの基準を設定します。

 このADI設定の考え方は国際的に共通していますが、食品ごとの基準については、各国がそれぞれの国の事情に基づいて定めています。例えば、残留農薬の基準を個別に比較した場合、日本と諸外国との気候風土(高温多湿等)や害虫の種類の違いなどにより、農薬の使用方法や検査する部位が異なる(玄米と籾米など)ことなどから、基準値が異なる場合があります。そのため、残留農薬の基準について、日本の基準が厳しい場合もあれば、諸外国又は国際基準の方が厳しい場合もあります。

残留基準値の設定品目数

 ポジティブリスト制度導入後に新規に残留基準を設定した農薬等(46品目)も含めると、現在、残留基準が設定されている農薬等は、合計で約800品目あります。暫定的に残留基準が設定された農薬等については、平成18年以降計画的に食品健康影響評価を内閣府食品安全委員会に依頼し、薬事・食品衛生審議会の審議を経て残留基準の見直しが進められています。現在までに累計で591品目の農薬等に係る食品健康影響評価が行われ、残留基準を改正した農薬等は219品目になっています。(平成26年3月末現在)

食品中に残留する農薬の調査

 国内に流通する食品については、自治体が市場等に流通している食品を収去するなどして、実態調査を行っています。検査は、自治体の食品衛生監視指導計画に基づき、検査予定数を決めて行います。

 輸入食品については、輸入の際に検疫所への届出が必要です。検疫所は、届出された輸入食品の中から、輸入食品監視指導計画に基づいて、モニタリング検査を行います。違反が確認されると、検査の頻度を高めたり、違反の可能性の高い食品に対しては、輸入の都度、検査を行うことになります。

 このように農薬の残留基準値がそれぞれの農産物等に設定され、さらに、輸入時や流通市場での調査を行うことにより基準値を超えた農産物等が排除され、その結果、「食の安全と安心」が確保されることになります。
なお、当法人においても農産物等の食品について、残留農薬の検査を受託しています。

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