食品自主回収制度の仕組とリコールの現状

2019年12月11日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
理事 安田 和男

2019年の秋は、ラグビーW杯や卓球、野球、バトミントンなどの世界的な大会が多数開催され、スポーツの秋を色濃く感じることができました。

秋といえば、鍋料理や果物などが美味しい食欲の秋でもあります。食べ物は命の源であるのはもちろん、体に良い、おいしい、空腹が満たせる、心が豊かになるなどのメリットがたくさんあります。

しかし、食べ物の中に異物や病原菌など健康に悪影響を与えるものが混入していたり、食品表示の欠落や不備により消費者が食品を購入する際の選択を誤らせるようなことがあっては、食品のメリットは得られません。

ところが近年、このような異物混入や不正表示、不良食品等の事例が多発しています。そのため国や自治体は、消費者が被害や危害を受ける恐れや、不安になるような食品に対しては、製品の回収(リコール)命令を発出しています。また、企業自らも法令違反や被害拡大あるいはその恐れに対する処置として、市場に販売されている製品や消費者が購入した製品の回収を行う例があります。

リコールの考え方として、内閣府・消費者委員会消費者安全専門調査会は「法律的に明確な定義はなく、広義には危害を最小限にするために必要な是正措置すべてを指す。狭義には、消費者の手元にあるものでの事故の発生を防止するため、事業者等が無料で交換や修理・回収をすることである。」との認識を示しています。

法律上の回収規定

食品のリコールに関わる法律としては、主に食品衛生法と食品表示法があります。

食品衛生法では、第54条第1項及び2項で「食品衛生上の危害の原因に対しては廃棄などの措置や危害を除去するための必要な措置をとることが命ぜられる。」と定められています。

食品衛生法は2018年6月、食を取り巻く環境の変化や国際化などに対応して食品の安全を確保するため、一部改正がありました。この中で、食品リコール情報の報告制度の創設として、食品事業者が食品の自主回収を行う場合に、自治体を通じて国へ報告する仕組みが構築されました。

食品表示法については、食品関連事業者が製品回収を行う場合の情報を行政機関に届出する仕組みがなかったため、2018年12月に一部改正が行われました。改正により、事業者が自主回収を行う場合、行政機関への届出が義務付けられ、さらにその情報は公表されることとなりました。

これにより、消費者が回収対象食品を喫食することを防ぐとともに、健康危害を未然に防止することができるようになりました。

官公庁の取り組み

東京都では、食品による健康への悪影響を未然に防止するため食品安全条例に基づく自主回収報告制度を設け、違反食品等の排除および都民への情報提供を実施しています。

さらに、厚生労働省は2018年8月、第5回食品衛生管理に関する技術検討会において、食品等のリコール情報の報告制度のクラス分類を提案しています。

そこでは、食品衛生法第6条(有毒有害な食品)、10条(許可外添加物)、11条(規格基準)、16条(有毒有害な器具・容器包装)、18条(器具・容器包装の規格基準)違反を制度の対象として、危害を3段階に分類しています。

しかしこの分類については、違反事例の内容によって分類の判断が難しいことがあり、また、消費者の反応や社会的影響を考えた事業者が過敏に反応することも懸念されています。

回収の現状

食品の回収情報は、国や都道府県、保健所ウエブサイトやメールマガジン、広報紙で公表されています。企業や食品事業者でも自社ホームページ、新聞、店頭等で情報を公開しています。

消費者庁は、食品リコール情報サイトを設け公表しています。直近の2019年9月から11月における食品の回収事例は122件で、その内訳を図2に示しました。

発生件数は、賞味・消費期限の欠落や誤りが最も多く、アレルギー物質表示の欠落事例と合わせて総件数の45%を占めています。次いで、プラスチック片や金属などの異物混入、カビ発生の事例が多くありました。対象食品は、菓子、調味料、惣菜、飲料など多岐にわたり、回収、返金、交換、注意喚起などの措置がとられています。

厚生労働省のウエブサイトでは、食品衛生法違反食品や輸入食品の回収事例が公表されています。

これからの食品回収の課題

リコールは食品だけでなく、家電製品、自動車、化粧品、玩具などの事例もありますが、その中でも食品は毎日の生活や生命、健康の維持に不可欠であり、リコールを招くような事態はできる限り避けなければなりません。

改正食品衛生法ではすべての食品事業者を対象に、HACCP(危害分析・重要管理点)システムによる衛生管理の実施が制度化されています。これは食材の受け入れから製造・調理・流通まですべての過程において危害要因を分析し、重要管理点を明確にして継続的に検証・記録する衛生管理システムです。食中毒の発生や食品衛生法に違反する食品の製造を 防止し、食品の安全性、品質を確保しようとする衛生管理手法です。問題点が判明した場合は、出荷停止や製品回収などの措置を迅速にとることができます。

これまでの回収事例の中には、HACCPシステムを導入または考え方を実践していれば、防げていたものもあると思われます。

最後に

回収は、原材料やエネルギー、経費などが無駄になるだけではなく、回収作業の負担や廃棄処分による環境影響もあります。さらに風評被害も招きかねません。

今後、食品衛生法及び食品表示法の双方による食品リコール情報の届出制度の仕組みが、食品業界にしっかり理解され、実行されることが必要です。それにより、消費者の生命・健康に危害や不安を及ぼすことのない食品の製造・販売、そして適切で不備のない表示がなされ、安全や品質面において安心できる食品が提供されると考えます。さらにHACCPを導入して的確に運用していくことも大いに役立つものと思います。


消費者庁リコール情報サイト <食料品>
https://www.recall.caa.go.jp/result/index.php

厚生労働省 <食品衛生法に違反する食品の回収情報>
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/kaisyu/index.html

東京都の食品安全情報サイト <食品衛生の窓 食品の自主回収情報>
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shokuhin/jisyukaisyuu/jyouhou.html

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