放射性物質検査の今

2012年4月10日
財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
日本橋検査事業部 担当理事 安田和男

検査の需要

昨年3月に発生した東日本大震災の影響による原子力発電所の事故以来、東北・北関東エリアを中心に放射性物質による農産物や水産物などの食品や飼料、土壌など広範囲にわたる汚染が明らかにされてきました。

震災直後の3月17日、厚生労働省は飲食に起因する国民の健康危害の発生防止を図るため「放射能汚染された食品の取り扱いについて」を発出し、暫定規制値を制定しました。そして検査に当たっては、「緊急時における食品の放射能測定マニュアル」を参照し、ヨウ化ナトリウムシンチレーションサーベメータやゲルマニウム半導体検出器を用いて放射性ヨウ素や放射性セシウムを分析することと通知しました。
 

測定装置の性能

国や県、市町村などの自治体及び登録検査機関では通知に従い検査を行ってきました。その他、迅速性に重きを置いた簡易型の測定装置を用いて、食品メーカーや農業・漁業関連団体による独自検査、消費者や住民の要望を受けた一般の会社による検査が実施されてきました。

しかし、測定機器によって各核種を1Bq/kgまで十分測定できる機種もあれば、数十Bq/kgまでしか正確な数値が得られない機種もあります。このような検出下限レベルの違いは、装置のエネルギー分解能や、バックグランドからの影響を防ぐために付属された遮蔽体の厚さや、食品の種類、測定時間などにより異なってきます。

そのため測定に用いた装置の性能によって、検査結果の評価や検出下限値の標記に混乱を招くこともあります。実際の検査の依頼でも、暫定規制値を大きく下回っている場合であっても、できる限り低い数値まで報告を求められことが多いのが現状です。

現在は、半減期が8日と短いヨウ素はほぼ消滅しているため、放射性セシウム(Cs-134,Cs-137)が検査の主たる核種になっています。そのため最近では多くの検査機関は、ゲルマニウム半導体検出器を用いたガンマ線スペクトロメータを使用して暫定規制値の数百分の一の低濃度まで測定結果を提供しています。

新基準値への対応

この4月からは食品衛生法により、新たな乳児用食品の区分や基準値が設定されました。厚生労働省では新基準値に関するリーフレットやQ&Aを提示しています(参考)。新たな基準値は、これまでの規制値の4分の一から20分の一の低い数値になるため、検出下限の低レベル化の要望はより強まってくるものと考えられます。

当センターもこのような検査の需要に応えられるように、今後も信頼性のある検査結果を提供していく所存です。そして食品の安全・安心を確保するための社会貢献事業としても積極的に取り組んでいきます。

参考:
「食品中の放射性物質の新たな基準値」
http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/dl/leaflet_120329.pdf

「食品中の放射性物質に係る基準値の設定に関するQ&Aについて」
http://www.mhlw.go.jp/shinsai_jouhou/dl/qa_120330.pdf

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