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漬物による腸管出血性大腸菌O157食中毒と課題について

トピックス : 食品等の検査

2012年11月2日
財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
財団法人東京顕微鏡院 理事 伊藤 武

野菜などの浅漬(一夜漬)は生鮮野菜と食塩、しょう油、アミノ酸液、食酢、調味液、酒粕、ぬかなどを原料として短時間に付け込んだものであり、甘酸っぱく、おいしさが強い食品であります。ただし、長期間発酵させた漬物から比較するとpHも5程度であり酸性が弱いものが多いし、食塩濃度も控えめであることから、微生物学的な対策が重要視される食品です。

今年(平成24年)の8月に北海道において白菜の浅漬による腸管出血性大腸菌O157食中毒発生がありました。過去においても同様な浅漬を原因食品としたO157食中毒が(表1)がみられており、これらの報告に基づいて食中毒の概要を紹介するとともに問題点についても言及します。

表1. 野菜漬け物による腸管出血性大腸菌O157食中毒

感染症と考えられた事例の際に白菜の浅漬からO157検出。
平成17年、香川県の高齢者施設でO157の集団流行。患者43名、死亡者6名。

1.カブの浅漬によるO157食中毒 1)

平成12年6月19日~23日に埼玉県下の老人保健施設で集団胃腸炎の流行が認められました。調査の結果はO157が原因と判明し、7名が発症、3名(溶血性尿毒症性症候群を合併した患者1名、感染により心不全を併発した2)が死亡しました。

保存食の細菌検査から6月15日の朝食に提供されたカブの浅漬けから患者と遺伝子型(パルスフイ-スド電気泳動パタ-ン)が同一のO157が検出されたし、感染者全員が当該食品を喫食していること及び接触感染の可能性も否定されたことからカブの浅漬を原因食品とする食中毒と確定されました。

原因食品のカブの浅漬は当施設に出入りしている業者が前日の晩に調整、冷蔵庫に保管された。カブの洗浄・消毒は数時間放置された電解水(強酸性電解水)を使用しており、遊離塩素濃度が低下した消毒液であったと推察されました。O157の汚染経路については明らかにされませんでした。

2.和風キムチによるO157食中毒 2,3)

平成13年8月に埼玉県内で製造されたキムチ風味の浅漬(和風キムチ)を原因食として埼玉県、群馬県及び東京都内で患者発生がありました。8月23日から26日にかけて全寮制の児童自立支援施設で13名が発病、検査の結果O157による食中毒であると判明したが、原因食品が特定されなかった。一方、東京都内で9家族から10名のO157患者発生が認められ、調査の結果、埼玉県で製造された和風キムチが疑われました。

この情報により、埼玉県で再度調査したところ、自立支援施設で8月20日に提供されたメニュ-に和風キムチ納豆がみられ、この和風キムチが共通食品であった。その後、埼玉県では5家族6名が同一和風キムチによりO157に感染したことが判明しました。また、家庭に残されていた和風キムチから患者と同一のO157(パルスフイ-スド電気泳動パタ-ン)が検出されています。

 和風キムチは白菜(国産白菜を1日600個を仕入れ)を2分割し、洗浄後カットされ、5℃以下の条件で20時間の塩漬後洗浄・水切りを行い、生ニンニク、おろし生姜、パプリカ、唐辛子などの調味液と混合し、カップ詰めされて出荷されており発酵工程や加熱工程のない浅漬であった。カップ詰め和風キムチは1都7県の200店舗以上で販売されていた。

3.キュウリの浅漬によるO157食中毒 4)

福岡市の調査で平成14年6月21日から7月6日にかけて保育所の園児、職員、園児の家族等112名が腸管出血性大腸菌感染し、有症者20名が入院、うち11名が溶血性尿毒症症候群を併発し、6名に脳症の合併症が認められました。患者のうち園児の家族12名は園児からの2次感染であると考えられました。

6月21日保育所の給食として漬物会社で製造されたキュウリの浅漬から患者と同一のO157(パルスフイ-スド電気泳動パタ-ン)が検出され、キュウリの浅漬が原因食品と考えられました。浅漬製造所の保管キュウリなどの食品や製造環境、汚水環境、従事者からはO157が検出することができず、キュウリの浅漬へのO157汚染経路については明らかにできていません。キュウリの浅漬は塩漬けしたキュウリにぬか床をまぶした簡単な漬物でありました。

園児の年齢別の感染率をみると、0歳児から5歳児まですべての年齢層に患者発生がありましたが、年齢の低い0歳児では18.2%、5歳児では84.4%と高く、キュウリの浅漬の喫食量に比例した感染率でした。キュウリの浅漬を喫食した多くが感染したことから、本食品に広くO157が汚染していたことが推察されます。製造期間中あるいは保育所での保存期間中にキュウリの浅漬中でO157が増殖したことも考えられます。

浅漬購入者への遡り調査からは保育所以外に患者発生の報告がないことから、保育所における衛生管理につても問題が残されました。

4.白菜の浅漬によるO157食中毒 5,6)

平成24年8月 札幌市管轄の6箇所、北海道管轄の5箇所の高齢者施設で105名がO157に感染し、うち87名が入院、7名が死亡する集団食中毒が発生した。それぞれの施設の給食メニュ-や食材についての調査および高齢者施設の保存食の「白菜きりづけ」から患者と同一のO157が検出され、漬物会社が製造した「白菜きりづけ」が原因であることが判明しました。当該の漬物は高齢者施設以外に食品ス-パ-、ホテル、飲食店などにも流通しており、情報提供を行った結果、64名の患者、うち40名の入院、1名が死亡したことも明らかになりました。

当該漬物は7月28日に漬込み、29日~31日に包装されて約300kgが販売されました。漬物の製造は白菜を選別し、外側の葉をはずして4分画して樽で水洗い、水分を切って次亜塩素酸ナトリウム溶液(樽)で約10分間消毒、流水で洗浄後カットし、さらに水洗い(樽)した。別途に消毒しカットしたキュウリ・人参と白菜に調味液を加えて一昼夜樽で漬け込み後、パックに詰めて包装、出荷しました。

札幌市保健所では原因を究明するために製造施設の製造工程の衛生管理、器具等の洗浄・消毒、殺菌工程、温度管理などについて再現試験を実施しました。その結果を表2に示した。なお、製品のpHは6.1、塩分濃度は1.9%、原材料用の冷蔵庫は3.6~5.3℃、漬け込みよう冷蔵庫は1.7~3.9℃、製造室のエアコンの温度は17.1~19.4に保たれていました。

表2.保健所による再現実験のまとめ(厚労省中間とりまとめ)9)  平成24年10月1日

発生状況からはすべての浅漬けにO157汚染であったのではなく、漬け込んだ特定な樽にのみO157汚染があり、白菜の浅漬に汚染したO157はどこかの過程で増殖したことが考えられます。

5.浅漬の衛生管理の問題点

浅漬に用いられる食材はキャベツ、カブ、白菜、長芋、ナスなどの野菜を主原料とし、食塩で一昼夜漬け込んだ後調味液と和えて製造される食品であるので、長期間に渡る発酵がなされていない。

(財)東京顕微鏡院の検査室で調査した野菜の浅漬食塩濃度は10件中6件が2%以下で、2-2.4%が3件であり、まろやかな味に製造が行われていた。キムチ5件のpHは4.9-5.5食塩濃度は野菜の浅漬よりは高く2.3-2.8でありました。浅漬はおいしさを追求した食品であって、食塩濃度は1~2%、pHは5~6程度で、O157の増殖が可能な食品であり、製造工程全般に微生物制御が重要となります。

1)O157の汚染経路

これまでに報告された4事例ではO157の汚染経路が解明されていません。推定される経路は(1)牛堆肥の発酵が不完全なために牛が保有したO157が生残し、野菜栽培耕地を汚染し、生野菜にO157が汚染した。(2)野菜の流通経路の集荷場や洗浄によりO157汚染が起きた。(3)漬け物工場での衛生管理の不備により環境からO157が汚染した。(4)従事者がO157を保菌していたために手指を介して漬け物が汚染した。これらのことを考慮しなければならないでしょう。

2)淺漬中でのO157の増殖の可能性

砂原ら7)は白菜の淺漬(pH5.2、食塩濃度1.87%)にO157を接種し、O157の増殖性を検討した成績からは 4℃や10℃保存では7日後でも菌の増殖が観察されなかぅたが、25℃ 保存ではO157の増殖が観察されています。

小田ら8)のキュウリの淺漬(pH4.6~5.4,食塩濃度1.5~2.7%)へのO157接種実験でも同様に25℃保存で増殖が認められており、10℃以下の低温で漬け込めばO157の増殖は起こらないと考えられます。

3)野菜からのO157の除菌

野菜には高濃度に細菌汚染があり、洗浄により菌数を減少させ、次いで次亜塩素酸ナトリウム処理による除菌が一般的です。これまでの著者らの成績でも次亜塩素酸ナトリウムによる野菜の消毒では汚染細菌数を2オーダー程度減少させることができます。

6.浅漬の衛生管理強化と漬物の衛生規範の改正

白菜の浅漬(白菜きりづけ)のO157事件から、漬け物工場の衛生管理の一斉点検が行われました。衛生上の各種の問題点が指摘され、それを踏まえて昭和56年9月24日に元厚生省が通知した漬物の衛生規範が改定(平成24年10月12日付け 監視安全課長通知食安発1012第1号)されました9)

主な改正の内容は以下のごとくです。

(1) 浅漬の原材料は、低温(10℃以下)で保管すること

(2) 漬け物製造に当たっては、次のことに留意すること。

 ア 各工程において、微生物による汚染、異物の購入がないように取り扱うこと。

 イ 原材料は飲用適の水を用い、流水で十分洗浄すること。

 ウ 半製品の保管及び漬け込みの際は、低温(10℃以下)で管理し、確認した温度を記録すること。

 エ 次のいずれかの方法により殺菌を行うこと。

  (a) 次亜塩素酸ナトリウム溶液(100ml/L で10分間又は200mg/lで5分間又はこれと同等の
     効果を有する次亜塩素酸水等で殺菌後、飲用適の流水で十分すすぎ洗いする。
     塩素濃度の管理を徹底し、確認を行った時間、温度及び実施した処置等を記録すること。

  (b)75℃1分間、加熱する。(a)と同様に加熱温度などの記録すること。

 オ 漬け込み液(漬床を除く)は、その都度交換し、漬け込みに用いた器具・容器の洗浄・消毒を
   行うこと。

 

おわりに

野菜の浅漬は残留農薬などの化学的危害、異物などの物理的危害に関する衛生管理も重要であるが、腸管出血性大腸菌、サルモネラ、リステリアなど病原微生物による危害 が原料、流通、製造過程、販売などで発生する危険性があり、厚生労働省の漬物の衛生規範、或いは全日本漬物協同組合連合会で検討が進められている漬物の衛生管理を遵守しなければならない10,11)

ただし、厚生労働省からは浅漬の微生物規格は示されていないことから、浅漬けの製造に当たっては食品工場独自に原料や洗浄・消毒工程の細菌学的な管理基準を設定して適切な衛生管理を推進していくことが望まれます。


【 参考文献 】

1)原怜子ら:カブの淺漬けに関連した老人保健施設における腸管出血性大腸菌O157
  感染症の集団発生-埼玉県-、病原微生物検出情報、21(12),272-273,2000

2) 尾関由姫恵ら:市販和風キムチに起因する腸管出血性大腸菌O157:H7Diffuse
 Outbreak事例、感染症誌,77,493-498,2003

3) 伊藤 武、甲斐明美:今微生物による食中毒で何が問題となっているか、モダンメディア、
  50(5),104-116,2004

4) 尾崎延芳ら:「キュウリの淺漬」が原因と推定された腸管出血性大腸菌O157の集団感染例,
  福岡市保健環境研究所報、28,120-124  2002

5) 札幌市保健所:腸管出血性大腸菌O157による食中毒の発生
   http:/www.city.sapporo.jp/hokenjo/shoku/info/O157 hassei.html

6) 厚生労働省薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒・食品規格部会::漬物による
   腸管出血性大腸菌O157事件の調査報告、平成24年10月1日

7) 砂原千寿子ら:浅漬けにおける腸管出血性大腸菌O157no消長について、
  香川県環境保健研究センタ-所報,(6),69-75,2007

8) 小田隆弘ら:キュウリの淺漬け製造過程における腸管出血性大腸菌O157の消長、日食微誌
  21(4),275-280,2004

 9) 厚生労働省医薬食品局:浅漬の衛生管理強化のための通知改正,平成24年10月12日
  厚生労働省医薬食品局:漬物の衛生規範改正等について,食安監発1012第1号、平成24年10月12日

10) 全日本漬物協同組合連合会:淺漬の製造・流通管理マニュアル-白菜漬を中心として-
  昭和63年5月

11)(財)食品産業センタ-:HACCP手法を取り入れた淺漬及びキムチの製造・衛生管理マニュアル、
  平成14年3月 

 


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