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ヒスタミンによる食中毒

トピックス : 食品等の検査

2013年6月28日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
食品理化学検査部 部長 中里光男

はじめに

魚介類及びその加工品に起因する食中毒はここ数年100~150件前後、全食中毒件数のほぼ10%で推移しています。その主原因は腸炎ビブリオやノロウイルスのような細菌やウイルスですが、このうち5~20件ほどがヒスタミンによる食中毒です。

ヒスタミン食中毒はヒスタミンが多量に蓄積された魚介類やその加工品を喫食することによって起こる中毒です。ヒスタミンは魚介類に付着したある種の細菌によって生成されますが、熱に安定であるため、焼き物や揚げ物などの食品でも中毒は起こります。ヒスタミン食中毒は細菌が直接的な中毒の原因ではないことから、厚生労働省の食中毒病因物質別分類では化学物質が原因の食中毒に分類されています。そのようなヒスタミン中毒について概説します。

食中毒の症状

ヒスタミンによる食中毒の発症は比較的早く、喫食後、1時間以内に顔面、特に口の周りや耳たぶが赤くなったり、蕁麻疹、頭痛、嘔吐、下痢などの症状が出ますが、症状は比較的軽く、一般的には短時間で回復します。抗ヒスタミン剤を服用すると速やかに回復します。まれに重症化する場合があり、呼吸困難や意識不明になることもありますが、死亡事例はありません。

一見、食物アレルギーの症状に似ていますが、免疫反応によるものではなく、症状は一過性であり、食物アレルギーとは区別されます。このようなことからヒスタミンによる食中毒はアレルギー様食中毒と呼ばれています。

ヒスタミンの生成機構

ヒスタミンは魚介類に含まれる必須アミノ酸の一つヒスチジンが、細菌のもつ脱炭酸酵素の働きにより生成されます。ヒスチジン含量の高いマグロやサバなどの赤身魚はヒスタミン生成量も多くなる傾向があります。

図1:魚種別ヒスチジン含有量(出典:東京都福祉保健局「食品衛生の窓」)
図1 魚種別ヒスチジン含有量 
(出典:東京都福祉保健局「食品衛生の窓」)
 

図1に魚種別のヒスチジン含有量を示しました。中毒事例の多い魚種も赤身魚が大部分であり、マグロ、カジキ、サバ、ブリやその加工品などが中毒原因となっています。

図2:ヒスタミンによる食中毒の原因魚(出典:登田ら「国内外におけるヒスタミン食中毒」より)
図2 ヒスタミンによる食中毒の原因魚
(出典:登田ら「国内外におけるヒスタミン食中毒」より)
 

図2に1998-2008年に日本で発生した89件のヒスタミン中毒の原因魚種を示しました。特に原因魚種の1/3を占めるマグロはヒスチジンの量が多く、また、日本人に好まれることから消費量も多く、食中毒の原因になりやすいものと思われます。

ヒスタミンの生成菌

ヒスタミンの生成菌としては腸内細菌科に属するMorganella morganiiCitrobacter freundiiEnterobacter aerogenesなど、また、海洋細菌に属するビブリオ科のPhotobacterium phosphoreumP. damselaeなどの細菌が知られており、これらが魚介類に付着していたことが直接の原因になりますが、実際のヒスタミン食中毒では鮮魚によるものは少なく、味醂干しや照り焼き、フライなどの加工品による中毒が圧倒的に多くなっています。これは調理施設での食材の温度管理の不備や切り身、開き、すり身、味付けにしたりする加工工程の衛生管理、その後の保存管理が適切でなかったことによると推測されます。

すなわち、鮮魚に比べ加工品は加工工程で人手や時間を費やし、施設環境との接触も多く、これらがヒスタミン生成菌の汚染率と汚染菌数を高める要因となっているものと考えられます。また、ヒスタミン生成菌の中には、冷蔵庫の中でも増殖可能なものもあります。

中毒量

食中毒を引き起こすと考えられる食品中のヒスタミン濃度は次のように推定されています。

①5mg/100g以下:安全域である。

②5~10 mg/100g;感受性が高いグループでは食中毒を起こす可能性がある。

③10~100 mg/100g:食中毒を起こす可能性があり、軽度~中程度の症状を呈す。

④100 mg/100g以上:食中毒を起こす可能性が高く、重篤な症状を呈する。

また、過去のヒスタミン食中毒事例をもとに食品中のヒスタミン濃度とおおよその喫食量に基づいたヒスタミンの中毒量は22~370 mgと報告されており、前者の推定と合わせて考慮すると食品中のヒスタミン濃度が10~20 mg/100gのレベルを超えると食中毒が誘発される可能性が生じるとされています。しかしながら、ヒスタミンに対する感受性は個人差が大きく、特にヒスタミンの感受性は成人よりも子供の方が高いと考えられています。また、喫食量による発症の違いも考慮する必要があります。

また、中毒試料中にヒスタミンの作用を増強するようなチラミン、カダベリン、プトレシンなどの腐敗アミン類が共存するとヒスタミンを解毒する酵素を阻害し、その結果、ヒスタミンの作用が持続・増強されるといわれています。このようなことからアレルギー様食中毒の検査ではヒスタミンのほかにプトレシン、カダベリン、チラミンなども同時に分析して評価することが望ましいとされています。

終わりに

ヒスタミン中毒を予防するにはどのようなことを心がければよいでしょうか。まず、新鮮な魚を購入すること。鮮魚には海洋性のヒスタミン生成菌が付着している可能性が高いので、室温での放置を避け、保存するときは冷凍し、長時間の冷蔵は行わないこと。切り身やすり身を作るときにはヒスタミン生成菌の二次汚染を避けるために十分な衛生管理のもとで行うのが望ましい。解凍等を行うときは冷蔵庫内で行い、使う分だけ解凍し、解凍後は速やかに調理する。フライや照り焼きなどでは、ヒスタミンは熱に強いので、熱をかけたから大丈夫と思うのは禁物。古くなった材料は使用しない等を心がければヒスタミン中毒のリスクは避けられるのではないかと思われます。


(参考文献)

  1. 登田美桜ら:国内外におけるヒスタミン中毒、Bull.Natl.Inst.Health Sci.、127,31-38(2009)
  2. 井部明広:発酵食品に含まれるアミン類、東京都健康安全研究センター研究年報、55,13-22(2004)
  3. 藤井健夫:アレルギー様食中毒、日本食品微生物学会雑誌、23,61-71(2006)

 

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