一般財団法人 東京顕微鏡院 > 食と環境の科学センター > 腸管系病原菌の検索 > トピックス : 腸管系病原菌の検索 > ノロウイルスのヒト腸管内での保有期間と対策

ノロウイルスのヒト腸管内での保有期間と対策

トピックス : 腸管系病原菌の検索

2014年1月8日
一般財団法人東京顕微鏡院 理事 伊藤 武

まえがき

ノロウイルスは小腸に感染し腸管上皮細胞でウイルスが増殖して、糞便中に排泄される。排泄されたノロウイルスはカキなどの二枚貝、洋・和菓子、弁当など各種の飲食物を汚染して食中毒を起こす。さらにはノロウイルス患者の糞便が人の手指、手すり、ドアノブ、玩具、絨毯、床など生活環境を汚染して人に経口感染するし、ノロウイルスを含んだ12指腸内容物が吐物に混入して排泄され人に感染する。いずれの感染経路にしても感染源はノロウイルス患者や保有者の糞便や吐物が感染源である。言い換えるならば、ノロウイルス対策の基本は感染源である人の制御である。

 1. 食品従事者からのノロウイルス検出

1)食品従事者が原因と推定されるノロウイルス食中毒

年間のノロウイルス食中毒事件数は200~300件、患者数が1万名から2万名である。これらの届出されたノロウイルス食中毒のうち、生カキや加熱不十分な二枚貝が原因とされた事例は原因食品が判明した事例の約34%である。サンドイッチ、和菓子、洋菓子、パン、餅、弁当などの飲食物による事例が約66%であり、後者の事例は食品従事者の糞便から食品にノロウイルスが汚染したことが推察されているが確かな証拠は少ない。

ノロウイルス食中毒うち全国紙のプレス発表された事例は606例(平成22年から25年)である。この内280事例(46.22%)については従事者からノロウイルスが検出されており、これらの事例では少なからず従事者の関与が考えられる。

ただし、食品従事者も患者と同一食品を喫食する場合もあり、一部の事例では食品従事者もノロウイルスによる被害者と考えられる。なお、胃腸炎症状のある際には直接食品に接触する作業に従事しないことは衛生管理の基本ではあるが、従事者がノロウイルスで発症しているにもかかわらず食品と接触する作業に従事したことから食中毒を起こした事例もある。

ノロウイルス食中毒事例における従事者からのノロウイルス検出事例 :新聞報道によるノロウイルス食中毒(平成22-25年)

2)食品従事者からのノロウイルス検出

ノロウイルスの保有者が食品に直接接触する危害を事前に防止する目的で食品従事者の糞便からのノロウイルスの検査が実施されている。当法人で実施している食品従事者からのノロウイルス陽性率は冬季では4%前後である。O157やサルモネラなどの保菌者検査と同様にノロウイルス陽性者は食品との接触を避けるために、多くの場合休職となる。休職期間は大量調理施設の衛生管理マニュアルではノロウイルスの排泄が陰性になるまでとされている。

 2.ノロウイルスの保有期間

O157やサルモネラの保菌期間は長期保菌となる場合もあるが、おおむね7日間以内である。ノロウイルスは腸管に感染し、免疫の力で体内からウイルスが排泄されると推察される。一般的にノロウイルスの保有期間は細菌感染症より長く症状消失後1週間までは糞便中にノロウイルスが証明される。杉枝らの調査では糞便中へのノロウイルス排泄量は54%が108コピ-/g以上であり、大量のウイルスが糞便中に排泄されている。不顕性感染者のノロウイルス排泄期間が13-15日であって、ウイルス量も107コピ-/gと報告されている。小児では1ヶ月以上の排泄も認められている。

当法人でのノロウイルス保菌者検査でもノロウイルス陽性者の感染暴露日時が不明であるが、検査当日を0日として排泄期間を求めたところ53%のノロウイルス陽性者は7日以内にノロウイルス陰性となっている。19%が10日以内、19%が15日以内、5%が20以内、4%が20日以上までノロウイルスを排泄していた。ノロウイルスの健康保菌者であっても約半数は1週間以上にわたりノロウイルスを排泄しているし、最も長い場合で26日であった。

3.ノロウイルスの保有期間を短縮できないか

ノロウイルスによる発症期間はおおむね3-5日間であり、早期に症状が回復する。しかし、症状が消失してもウイルスを排泄していることが多い。

保有期間を短縮させるために多くの場合腸管の細菌叢の働きにより免疫力を高める方法として乳酸菌飲料の摂取が試みられている。

最近、ラクトフェリン投与によりノロウイルス感染症の症状軽減化になることが森内らにより報告されてきた。ラクトフェリンは母乳や牛乳中に含まれる鉄と結合したタンパク質である。ラクトフェリンにより腸管上皮細胞に作用し、サイトカインの産生を促進して免疫力が強化される。ラクトフェリンと消化酵素が反応し、抗菌活性のあるラクトフェリシンが生成されることも証明されてきた。従って、ラクトフェリンの投与により、ノロウイルスの排泄期間を短縮できるのであろうと想像されるが、今後の研究の進展が望まれる。

あとがき

ノロウイルス感染後、回復した患者や不顕性感染者が長期間に渡り腸管内にノロウイルス保有し、糞便に排泄していることはノロウイルス食中毒や感染症拡大への重要な要因である。ノロウイルスの排泄期間を短縮することがノロウイルス食中毒や感染症の低減化に寄与するであろう。また、食品従事者は早期に職場への復帰が可能となり、経済的負担の軽減ともなろう。


参考文献

1)杉枝正明ら:Norovirus感染により排泄されるウイルス量について、臨床とウイルス、32,189-194,2004

2)食品安全委員会:食品健康影響評価のためのリスクプロファイル及び今後の課題-食品中のノロウイルス-、2010年4月

3)山内恒治ら:母乳に含まれる感染防御因子、産婦人科の実際、56,327-332,2007

4) 森内昌子ら:ラクトフェリン含有食品摂取による保育園でのノロウイルス感染症、第50回日本臨床ウイルス学会,S56,2009

5) Ishikawa,H., et al : The protective effects of lactoferrin against murine norovirus infection    through inhibition of both viral attachment and replication, Biochem. Biophy. Resa, Communi., 434,791-796,2013

ご参考


トピックス一覧へ

 

ダウンロード
検査依頼書
食と環境の科学センター
【 豊海研究所 】
〒104-0055
東京都中央区豊海町5-1
豊海センタービル4F
TEL: 03-3534-2970
FAX: 03-3534-2975

【 立川研究所 】
〒190-8535
東京都立川市高松町1-100-38
TEL: 042-525-3176
FAX: 042-525-3645
簡易専用水道専用
TEL: 042-525-3186

【 市ヶ谷本院 】
〒102-8288
東京都千代田区九段南4-8-32
市ヶ谷本院5F
TEL: 03-3238-2137
FAX: 03-3238-2153
関連施設
ページの先頭へ戻る