知っているつもりが怖い自然毒食中毒

2025.07.25

2025年7月25日
一般財団法人 東京顕微鏡院
理事 安田 和男

はじめに

食中毒とは、有害・有毒な物質が付着・混入または含有されている飲食物に起因する、人に対する健康被害である。食中毒の原因となる物質は、厚生労働省 食中毒統計資料では、図1のように分類されている。このうち自然毒は、植物性自然毒と動物性自然毒とに大別される。

図1 細菌・ウイルス・寄生虫・化学物質・自然毒の食中毒分類とその例

図1 食中毒の分類

植物や動物の中には、人や動物に有害な影響を及ぼす物質を含むものが少なくない。植物性自然毒食中毒は、常在成分として有毒成分を含有する植物やキノコを摂食することにより発生する。動物性自然毒食中毒は、特定の時期に毒化した魚介類や、食物連鎖により有毒成分を蓄積した魚介類を摂食することにより発生する。

本稿では自然毒食中毒の発生状況や代表的な自然毒の概説と、自然毒食中毒防止のための留意点を述べる。

自然毒食中毒の発生状況と原因調査

2018~2024年の厚生労働省 食中毒統計資料における全国の食中毒発生件数、患者数、死者数を集計し、図2,3,4に示した。

図2 円グラフ

図2 食中毒発生件数

図3 円グラフ

図3 食中毒患者数

図4 円グラフ

図4 食中毒死者数

全国(2018-2024年) 厚生労働省:食中毒統計資料より作図

発生件数、患者数ともに細菌、ウイルス、寄生虫を原因とする事件が約90%を占めるが、死者数は自然毒が総数の70%以上を占めている。このように有毒植物や毒キノコ、有毒魚介類による自然毒食中毒は、致死率が高いことが大きな特徴と言える。

食中毒事件が発生した場合、食品衛生法第63条において、食中毒患者を診断した医師は、直ちに保健所に届け出ることとされている。保健所の食品衛生監視員による原因食品および原因物質の調査では、
①患者が食べた食品、共通食
②食品残品の色、におい、粘性など
➂患者の症状、発症時間
④患者の人数、年齢層
などの聞き取り、観察などを行い、原因物質の推定を行う。
これらの調査に基づき、国や自治体の研究機関で科学的な検査による原因物質の解明が行われる。分析機器としては、高速液体クロマトグラフ-質量分析計(LC/MS/MS)、ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC/MS/MS)、PCR装置などが使用され、原因物質の定性・定量、遺伝子検査などを行う。

植物性自然毒

1) 有毒植物による食中毒

有毒植物の若芽や葉、根茎などを食べられる植物のそれと間違えたり、柔らかくて美味しそうだと採取し、食べて食中毒を発症する。食中毒の原因となる植物の種類は時代とともに移り変わり、これまでのチョウセンアサガオ、トリカブト、ハシリドコロなどから、近年はスイセン、イヌサフラン、グロリオサなどの園芸植物による事例が目立つようになった。そのため、家庭園芸では食用植物と観賞用植物は明確に区分けして植えることや、植えた植物を家族にも伝えることが大事である。

スイセンは、冬~春に白や黄色の花を咲かせる園芸品種である。葉や球根などに有毒アルカロイド(リコリン、ガランタミン)を含有し、食後30分ほどで嘔吐、下痢を起こす。葉はニラやノビルに、鱗茎(球根)はタマネギに似ているため、自宅庭に生えていたスイセンを誤食して食中毒を起こす例が毎年発生している。スイセンは、ニラと比べて葉の幅は広く、茎は太い。大きな違いはスイセンにはニラのような刺激臭がないことである。
2025年5月富山県で5名が、親戚からニラとしてもらった植物を食べ、また2024年4月群馬県で、自宅庭で採取した植物をニラと誤認して、食中毒が発生した。

イヌサフランは、一般に淡紫紅色で、観賞用として栽培される。鱗茎、手指、葉、花などに有毒アルカロイド(コルヒチン)を含有し、嘔吐、呼吸困難などの症状を呈し、重度の場合は死に至る。秋には球根を、ニンニク、タマネギ、ミョウガなどと誤認し、春には葉をギョウジャニンニク、ギボウシ、山菜などと誤食し食中毒を起こすことが多い。
2024年5月札幌市で、自宅庭で栽培していたイヌサフランをギョウジャニンニクと間違え食べた2名が死亡する事件があった。

グロリオサは、橙色、黄色などの花を咲かせ、葉先が特徴的な巻きひげ様になる園芸植物である。全草(葉、茎、花、塊状根など)に有毒アルカロイド(コルヒチン)を含有し、口腔灼熱感、発熱、嘔吐、下痢などの症状を呈し、臓器機能不全から死亡する場合もある。
2022年4月宮崎県では、自宅庭で採ったグロリオサの根部をヤマイモと誤ってすり下ろして食べ、男性が死亡した。2025年2月秋田県では、観賞用に栽培保管していたグロリオサの球根を、ヤマイモと間違えて煮物にして食中毒が発生した。

最近、ユウガオを食べ唇のしびれ、吐き気、嘔吐、腹痛などを起こす食中毒事例が多くみられる。2024年には炒め物などにして食べたユウガオにより、全国で7件の食中毒が発生している。ユウガオはヒョウタンの一種で、果肉や種子に苦味(ククルビタシン類)の少ない品種が食用とされ、かんぴょうの原料としても利用される。食中毒は、ククルビタシン類含量の特に高いユウガオによるものと思われる。

「自然毒のリスクプロファイル」(厚生労働省)の「過去10年間の有毒植物による食中毒発生状況(平成27年~令和6年)」抜粋を表に示した。

表 有毒植物による食中毒
厚生労働省: 「自然毒のリスクプロファイル」より

過去10年間の有毒植物による食中毒発生状況 (平成27年~令和6年)

2) 毒キノコによる食中毒

我が国には、4,000∼5,000種類のキノコが存在し、このうち食べられるキノコは約100種類であり、一方、毒を有するキノコは200種類以上といわれる。食中毒事件の約9割は、秋(9~11月)に発生している。中毒症状は、嘔吐、下痢、腹痛から、重症では死に至る。

キノコによる食中毒事例は、毒キノコを食用キノコと間違えて採取し、食べて発症する。原因となるキノコは、ツキヨタケ、カキシメジ、クサウラベニタケの3種で、総数のほぼ70%を占める(写真)

ツキヨタケ、カキシメジ、クサウラベニタケの写真

食中毒事例が多い毒キノコ 3種

ツキヨタケはシイタケと、カキシメジはチャナツムタケと、クサウラベニタケはウラベニホテイシメジなどと誤認して中毒する。その他カエンタケ、ベニテングタケ、ドクツルタケなどが代表的な毒キノコである。
2024年には全国で、ツキヨタケによる食中毒が9件、オオシロカラカサタケによるものが4件発生しており、7月に長野市ではドクツルタケによる死者も出ている。

なおキノコの見分け方として、柄が縦に裂けるものは食べられる、虫が食べているキノコは食べられる、毒キノコもナスと一緒に料理すれば食べられるなど多くの迷信があるが、ウソであり、信じて食べると中毒を起こす。

毒キノコによる食中毒を防止するためには、キノコ狩りでは図鑑の写真や絵にあてはめ勝手に鑑定して、誤って毒キノコを採取しないように、十分に注意する必要がある。

動物性自然毒

1) フグによる食中毒

フグの主要な有毒成分であるテトロドトキシンは、フグが餌として捕食するプランクトンや貝類などに含まれ、食物連鎖によりフグの肝臓などの内臓に蓄積される。一般的な調理加熱では分解しない。極めて強い神経毒で、その強さは青酸カリの1,000倍ともいわれ、しびれ、麻痺、呼吸困難などから重症の場合は死に至る。肝臓、卵巣は食用不可であり、毒力の強さはフグの種類と部位によって異なるため、食用可能なフグの種類と部位が「処理等により人の健康を損うおそれがないと認められるフグの種類および部位」(厚生労働省)として定められている。2024年には、全国で10件のフグによる食中毒が発生している。

フグの調理には専門的な知識、技術が必要であり、素人による調理は絶対にしないことが、フグによる食中毒防止のポイントである。

2) シガテラによる食中毒

熱帯、亜熱帯地域の南太平洋、カリブ海、インド洋のサンゴ礁周辺に生息する魚が毒化し、人が摂食することにより発生する食中毒をシガテラと称する。毒化は有毒渦鞭毛藻がシガトキシンを産生し、この藻類を魚が捕食、その藻食魚を肉食魚が捕食する食物連鎖により起こる。神経症状であるドライアイスセンセーション(温度感覚の異常)、掻痒、筋肉痛、関節痛、めまい、脱力感などのほか下痢、嘔吐、不整脈などを呈することもある。

わが国では奄美、沖縄などの南西諸島でも発生し、近年は気候温暖化によりその海域は北上している。シガテラの原因魚種として、バラフエダイ、アオブダイ、バラハタなど約400種が知られている。

3) 麻痺性貝毒、下痢性貝毒による食中毒

ホタテガイ、ムラキイガイ、カキなどの二枚貝は、有毒プランクトン(Alexandrium属、Dinophysis属など)を餌として取り込むことで、その毒成分を主に中腸腺に蓄積し、春先から初夏にかけて貝が毒化する。麻痺性貝毒であるサキシトキシンやゴニオトキシン群および下痢性貝毒であるオカダ酸やジノフィシストキシンなどの毒成分は、熱に強いため加熱調理では分解されない。麻痺性貝毒に罹患した場合、しびれ、麻痺、呼吸困難などを発症し、死亡する危険性もある。下痢性貝毒の場合は、下痢や腹痛などを起こす。

各都道府県は、採取海域の貝が貝毒の規制値を超えた場合は、採取・出荷の自主規制を行っている。アカザラガイ、ホタテガイ、ホッキガイ、ムラサキイガイ、カキなどを検査対象としている。

甲殻類のスベスベマンジュウガニ、トゲクリガニや輸入された巻貝のセイヨウトコブシなどから麻痺性貝毒が検出される例もある。

4) テトラミンによる食中毒

エゾバイ科の巻貝、通称「ツブ」と呼ばれるヒメエゾボラ、クリイロエゾボラなどは、唾液腺に有毒成分のテトラミンを有する。熱に強いため、通常の加熱調理では毒性は失われない。食後30分から1時間程度で、激しい頭痛、めまい、船酔い感、足のふらつき、吐き気などの症状を呈する。過去には、数個の巻貝を食べ発症した中毒事例もある。死亡例はない。

巻貝は酒のつまみとして食べることが多いため、中毒症状(酩酊感)が酒に酔った症状として見過ごされることもあると思われる。

自然毒食中毒を防止するために

  1. 知らないと怖い。知ったつもりはもっと怖い。
  2. 確実に判断できない植物やキノコは、絶対に「採らない」、「食べない」、「売らない」、「人にあげない」。
  3. 図鑑と実物は外観等の様子が異なることがある。
  4. 新芽や根茎だけで種類を見分けることは、難しいことを知る。
  5. 自宅庭には、食用の植物のみ植えていると過信しない。
  6. 季節や生育場所での、気を付けるべき有毒動植物や有毒キノコの情報をしっかり把握しておく。
  7. フグの素人料理はしない。
  8. 疑問があるときは、専門家や保健所等に問い合わせる。

おわりに

自然毒食中毒は、有毒植物や有毒魚介類の誤認や誤用により発生する。その多くは家庭で発生しており、自身で採取した植物やキノコあるいは捕獲した魚介類が有毒なものではないとの思い込みや知識の過信で起こる。
自然毒食中毒は死亡率の高い食中毒であることからも、身を守るためには正しい知識を身につけ、疑わしい植物や魚介類は決して口にしないことが肝要である。

参考資料

厚生労働省:食中毒統計資料
     :有毒植物の誤食による食中毒防止の徹底について[PDF] (令和7年3月27日通知)
     :自然毒のリスクプロファイル
     :「有害植物による食中毒に注意しましょう」リーフレット
     :観賞用植物の誤食に注意![PDF] (令和4年10月17日通知)
     :過去10年間の有毒植物による食中毒発生状況 (平成27年~令和6年)
     :フグの衛生確保について (昭和58年12月2日)  

農林水産省:「知らない野草、山菜は採らない、食べない!

消費者庁:「家庭菜園等における有害植物による食中毒に御注意ください[PDF]

国立医薬品食品衛生研究所:「有毒な植物と食べられる植物 間違えないように気をつけて![PDF]

東京都保健医療局:「食品衛生の窓」食中毒の発生状況

(公財)日本中毒情報センター:中毒110番

毒草を食べないで![PDF]」リーフレット

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