食物アレルギー物質による健康被害と食品表示基準の現状

2026.04.28

2026年4月28日
一般財団法人 東京顕微鏡院
 理事 安田 和男

はじめに

食品は、生命や健康を守る必要不可欠のものであるが、食品中のたんぱく質等(アレルゲン)によって、自らの身体が過剰に反応して、蕁麻疹や腹痛、嘔吐、息苦しさなどの症状が起こる現象があり、これを食物アレルギーという。原因物質が微量でも発症することがあり、皮膚への接触で発症することもある*1

食物アレルギーの症状としては、皮膚症状が最も多く、次いで呼吸器症状、消化器症状などがある。複数臓器にアレルギー症状が誘発され、生命に危機を及ぼすような過敏反応は、アナフィラキシーと定義される。血圧低下や意識障害を伴う場合をアナフィラキシーショックという。

食物アレルギーの原因食物の上位は長らく、1.鶏卵、2.牛乳、3.小麦であったが、近年はクルミによる発症例が鶏卵に次いで多くなっている。

本稿では、食物アレルギーによる健康被害の実態、食品表示基準の改正及び食物アレルギー物質の検査法等について概説する。

食物アレルギー物質による健康被害

食物アレルギーは、以下のような3タイプに大別される。

  • 即時型アレルギー
    一般的に、食後2時間以内に蕁麻疹、かゆみなどの皮膚症状や呼吸器症状を発症する。過去には乳製品にアレルギーをもつ女子小学生が給食でチーズ入りチヂミを食べ、アナフィラキシーショックにより死亡した例があった。
  • 食物依存性運動誘発アナフィラキシー
    特定の食物摂取後の運動負荷によりアナフィラキシー症状が誘発される。過去には、小麦アレルギーのある男子中学生が、小麦を使用したサケのフライ給食を食べた後にサッカーをしてアレルギーを発症した例がある。
  • 花粉-食物アレルギー症候群
    花粉にアレルギーをもつ人が果実や野菜を食べた時、花粉が入ってきたと身体が勘違いして口の中にかゆみや刺激を感じる。

2023年の食物アレルギーの健康被害調査「即時型食物アレルギーによる健康被害に関する全国実態調査」(消費者庁) *2 による原因食物別(品目別)の割合を図1に示した。なお、本調査は、食物を摂取後60分以内に何らかの反応が見られ、かつ医療機関を受診したものを対象にしている。

図1 即時型食物アレルギーの原因食物 (品目別)

調査対象とした6,033例のうち鶏卵に次いで、クルミ、牛乳、小麦による症例が多い結果となっている。特に木の実類については、クルミ、カシューナッツ、マカダミアナッツなどの合計は、全体の24.6%(1,484例)を占め、鶏卵(26.7%)に次いで多い。これは健康志向の高まりと相まって、クルミやカシューナッツなどを使用したケーキや菓子類の消費量が増加していることも一因と考えられる。
アレルギーを発症した木の実類の内訳を表1に示した。

種類症例数木の実類中の%全体における%
クルミ91661.715.2
カシューナッツ27918.84.6
マカダミアナッツ694.61.1
ピスタチオ503.40.8
アーモンド463.10.8
ぺカンナッツ352.40.6
ヘーゼルナッツ271.80.4
ココナッツ50.30.1
松の実・クリ40.30.0
木の実類
(ミックス・分類不明)
533.60.9
1,484100.024.6

年齢群別の上位3品目を表2に示した。
0歳群では、鶏卵、牛乳、小麦の3品目で95.6%を占める。クルミは1~2歳群では2位、3~6歳群では1位、7~17歳群でも1位と上位を占めており、今後もその動向に注視する必要がある。

表2 年齢別 原因食物 (上位3品目)

年齢症例数1位2位3位
0歳1,418鶏卵
(60.6)
牛乳
(21.4)
小麦
(13.6)
1~2歳1,347鶏卵
(33.7)
クルミ
(14.6)
牛乳
(12.9)
3~6歳1,722クルミ
(28.3)
落花生
(12.0)
イクラ
(9.4)
7~17歳1,228クルミ
(17.2)
牛乳
(13.8)
鶏卵
(10.7)
≧18歳318小麦
(21.1)
エビ
(16.7)
大豆
(8.2)
( ) 内は各年齢群に占める割合

図1、表1、表2は「即時型食物アレルギーによる健康被害に関する全国実態調査」 (消費者庁) *2より作成

食品表示基準における表示規制

1) 食品表示制度

2001年4月、アレルゲンを含む食品に起因する健康被害が増加したことを受けて、健康危害の未然防止を目的に、食品表示制度が定められた。
食物アレルギーの発症数、重篤度の高い品目は「特定原材料」、将来的に特定原材料に移行する可能性が高いものは、「特定原材料に準ずるもの」として定められている。
表3に現在の表示対象を示した。現在、特定原材料(義務表示)は9品目、特定原材料に準ずるもの(推奨表示)は20品目である。

表3 食物アレルギー表示対象 (2026年4月1日施行)

特定原材料 (9品目) 
表示が義務付けられているもの
エビ ・カシューナッツ ・カニ ・クルミ ・小麦 ・ソバ ・卵 ・乳 ・落花生
特定原材料に準ずるもの (20品目) 
表示が推奨されているもの
アーモンド ・アワビ ・イカ ・イクラ ・オレンジ ・キウイフルーツ・牛肉 ・ゴマ ・サケ ・サバ ・大豆 ・鶏肉 ・バナナ・ピスタチオ ・豚肉 ・マカダミアナッツ ・モモ ・ヤマイモ ・リンゴ ・ゼラチン

消費者庁は2023年3月9日、アレルギー症例数が増加したクルミを「特定原材料」とする食品表示基準の改正を行った *3。さらに、即時型アレルギー症例数及びショック症例数が増加しているカシューナッツについては、2025年12月、「食物アレルギー表示に関するアドバイザー会議」の中で、「特定原材料」に追加する方針を決め、2026年4月1日食品表示基準の一部を改正 *4 し、内閣府令 (令和8年 内閣府令 第34号) *5 を公布及び施行した。経過措置期間の2年間は従来の表示ができる。

また、カシューナッツと同じウルシ科に属するピスタチオは、交差反応が知られており、症例数も増加傾向にあることを踏まえ、2026年4月1日より推奨表示品目に追加された。なお、2024年3月28日には、マカダミアナッツが推奨表示品目に追加され、これまで推奨表示品目であったマツタケは削除されている *6

諸外国における食物アレルギー表示対象品目については、米国、EU、カナダ、オーストラリアでは木の実類は表示対象になっているが、日本では木の実類のうちクルミカシューナッツのみが表示対象である。また、日本では推奨表示品目である大豆、サケ、サバは、上記の国々では表示対象となっている(2022年3月情報、日本は2026年4月情報)。

2) 食品表示法による自主回収

食品表示法では、食品表示基準に従ってアレルギーや消費期限などの表示がされてないことで、消費者が危害を受ける恐れがある場合、内閣総理大臣は食品関連事業者に対し当該食品の回収を命ずることができる。

また、事業者自らも表示ミスやそれによる被害の恐れに対する処置として、すでに販売されている製品や消費者が購入した製品を、自社ホームページやマスメディアに明らかにして、該当製品を自主回収することが増加している。なお、食品関連事業者は、公表するとともに自治体を通じて国へ報告することが食品表示法により定められている。

2026年1月6日から2026年4月3日までのおよそ3か月間における、食物アレルギー物質の表示ラベルの貼り間違い、表示内容の誤入力・入力漏れ、使用原材料の間違いなどの表示ミスによる自主回収事例は214件を数え、このうち11件で実際に喫食者が発症する事例が起こっている *7

外食・中食における食物アレルギー情報提供の課題

近年、レストランなどの飲食店での外食や、惣菜店・菓子店などから購入する中食の利用が増加している。それに伴い、食物アレルギー物質による健康被害の発生事例も多く見られるようになった。

食物アレルギー表示については、加工食品はパッケージに表示が義務化されているが、外食・中食で提供される製品には表示義務はない。これは、営業の規模や形態が様々であること、原材料やメニューの種類が多いことや、調理現場でのコンタミネーション防止が難しいことを踏まえている。 

消費者庁による、飲食サービス業や中食業、宿泊業、娯楽業等における食物アレルギーに関する実態調査の報告書(令和7年)*8 では、「食物アレルギーに関する対応を行っている」と回答した業者は、51.8%と約半数に過ぎなかった。対応実施の効果として、お客様の満足度・評価の向上、リピーターの増加、従業員の意識向上などが見られる一方、人手不足やコストアップ、時間がかかるなどの課題があることが明らかになっている。また、緊急時の対応マニュアル等はないとの回答は、58.4%と半数を超えている。初期対応が重要な健康被害発生時の体制整備の遅れが見られる。

情報提供への取組み内容は食品事業者に一任されており、決まったルールはないことから、食物アレルギーがある人はお店からの正確な情報を得ることや、アレルギーがあることを従業員や店にはっきり伝えることが必要であると考える。
消費者庁は外食・中食における食物アレルギーに関して、消費者および食品事業者向けのパンフレットや動画を作成し、公表している*9

なお、学校給食での誤食によるアレルギー事故は毎年のように発生しているが、誤配膳、原材料の見落としなど定められた手順に従わず、確認が不十分であったことが原因で発生している。調理・配膳等の各段階における確認、食材発注・受注時の確認を徹底することが大事になる。

食物アレルギー物質の検査

消費者庁次長通知「食品表示基準について 別添 アレルゲンを含む食品の検査法」(平成27年3月30日 消食表 第139号) *10 により、表示義務のある特定原材料の検査法が定められている。

検査は、始めに抗原抗体反応を利用した2種類のキットを用いたELISA法(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay法)による定量検査(スクリーニング検査)を実施する。この定量検査の結果の判定は、「食品採取重量1g当たりの特定原材料等由来のタンパク質含量が10㎍以上の試料については、微量を超える特定原材料が混入している可能性があるものと判断する。」としている。

定量検査での結果と原材料や製造工程記録に整合性が見られない場合には、定性検査による確認を行う必要があり、検査対象により異なる方法が用いられる。
・試料中のタンパク質を電気泳動により、分子量に従い分離検出するウエスタンブロット法(卵、乳)、
・試料中から標的DNAの有無を確認するPCR法(エビ、カニ、小麦、ソバ、落花生)、
・リアルタイムPCR法(クルミ、小麦、ソバ、落花生)、
・PCR-核酸クロマト法(クルミ)
などがある。
検査においては偽陽性又は偽陰性を示す食品が存在することあるため、「判断樹」*11 を参照して検査を実施する必要がある。

今後の課題

食物アレルギー物質による健康被害の未然防止のためには、被害の実態を継続的に把握するとともに、適切なアレルギー表示や正確で最新の情報提供が欠かせない。そのために、食品関連事業者に向けた表示制度の適切な普及・啓発が必要であると考える。

一方、科学的バックボーンとなる食物アレルギー物質の確認に、症例数が増加している木の実類を使用した加工食品中のアレルギー物質に対する検査法の確立が急務であると考える。
食品関連事業者には、最終製品や製造工程でのアレルギー物質の存在を確認するために、科学的検証となる検査によるリスク管理が求められる。

また、食生活スタイルの変化にともなって外食・中食の需要が増える中、食品関連事業者にとって、食物アレルギーをもつ消費者への有効な情報提供の仕方や健康被害防止のために適切な対策の運用は大変重要であると思われる。

参考資料

1) ファクトシート「アレルゲンを含む食品(総論)」[PDF] 令和6年7月23日作成、令和8年3月24日更新:内閣府 食品安全委員会 

2) 令和6年度 食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業 報告書 [PDF] 令和6年9月:消費者庁

3) くるみの特定原材料への追加及び木の実類の取扱いについて[PDF](令和5年3月9日事務連絡) :消費者庁 食品表示企画課

4) 「食品表示基準について」の一部改正について[PDF] (令和8年4月1日 消食表 第237号):消費者庁 次長

5) 内閣府令 第34号[PDF] 令和8年4月1日 食品表示基準の一部改正

6) アレルゲンを含む食品に関する表示について[PDF] (令和6年3月28日事務連絡):消費者庁 食品表示企画課

7) 食物アレルギー危機管理情報 食品回収情報:NPO法人 FAICM

8) 外食・中食における食物アレルギーに関する情報提供の取組に係る実態調査[PDF] 令和7年3月31日:消費者庁 食品表示課

9) 消費者向けパンフレット「外食・中食を利用するときに気をつけること」令和5年3月:消費者庁

10) 別添 アレルゲンを含む食品の検査方法[PDF]:消費者庁

11) 別添 判断樹[PDF]:内閣府

お電話でのお問い合わせ