中国産冷凍いんげんのジクロルボス問題

財団法人東京顕微鏡院 豊海研究所 所長 安田和男
信頼性保証室:生野 美千代

平成20年10月15日、厚生労働省は、東京都において、異味、異臭(石油臭)の苦情があった「中国産冷凍いんげん」の残品について残留農薬の分析をしたところ、有機リン系農薬であるジクロルボスが6,900ppm検出されたという報告があったことを発表しました。

そこで、ジクロルボスが検出された原因が判明するまでの間、当該製品は販売を見合わせるようにと指示、また、当該製品製造者からのすべての食品の輸入手続きを保留することなどの対応が取られています。現在のところ、ジクロルボスが製品から確認された事例は1件のみで、ほかにジクロルボスによる中毒が疑われる事例もありません。

ジクロルボスは多量に摂取すると、吐き気、下痢、嘔吐、縮瞳、視野狭窄、意識低下などの神経系症状が現れる可能性があり、大量摂取の場合は死に至ることもあり、劇薬に指定されています。

日本においては、殺虫剤として農薬の登録があり、動物用医薬品としても承認されているため家庭用殺虫剤にも利用されています。食品衛生法において農産物中の残留基準が定められており、いんげんのジクロルボス(ナレドとの総和)の残留基準は0.2ppm以下となっています。

今回のジクロルボスの検出濃度は、基準値の34,500倍で、実際にいんげんの栽培時にジクロルボスを使用した場合でも、これほど高濃度に残留することは考えられません。

また、ジクロルボスは、厚生労働省によるADI(一日摂取許容量)※1や米国環境保護庁(EPA)によるARfD(急性参照量)※2が設定されており、今回の冷凍いんげんのジクロルボス検出量をARfDからみると、体重60kgの人が、この製品を0.07g摂取すれば、ARfDを超えてしまうことになります。

このように、ヒトへの影響を考えても、今回の冷凍いんげんから検出されたジクロルボス濃度は非常に高いものです。

また、今年はじめに起きた中国産冷凍ギョーザの事件の際にもジクロルボスが検出された製品がありました。そのため、厚生労働省は、冷凍加工食品の原材料に対してジクロルボス、メタミドホスなどの有機リン系農薬のモニタリング検査や、すべての加工食品輸入者に残留農薬管理の確認についての指導をしてきました。

今回の冷凍いんげんに対しても、残留農薬の検査は行われたと言われていますが、もし、一部の製品にのみ、ジクロルボスが混入したのであれば、抜き取り検査では汚染された製品があっても検査をすり抜けてしまう可能性もあります。現在までのところ、ジクロルボス混入の原因は明らかとなっていませんが、今後は、製造・流通過程での監視体制、検査体制の見直しなどを検討する必要もあると考えられます。


※1 ADI(一日摂取許容量):ヒトが毎日一生食べ続けても健康に悪影響が生じないと推定される量のこと。厚生労働省では0.0033mg/kg体重/日、JMPR(FAO/WHO合同残留農薬専門家委員会)では、0.004mg/kg体重/日としている。

※2 ARfD(急性参照量):経口摂取により24時間又はそれより短時間に健康に悪影響を示さないと推定される量のこと。米国環境保護庁(EPA)では0.008mg/kg体重/日としている。日本では未設定。

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