食品工場に分布するカビ

2015年1月30日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
食品微生物検査部 部長 難波 豊彦

1. カビはどこにいるのか

食べ物を買って「さあ食べよう」とした時、カビが生えていたら楽しい気分も一気に失せていきます。まして食べている途中に気付いたら気分を悪くする人もいます。食品工場で管理されて作られた食品は衛生的で、カビがいるなどとは誰も思わないでしょう。

しかし、カビは土壌を起源とし、空気、ちり、水、ヒトやモノなどを介してあらゆるところに移動します。衛生的に管理された食品工場も例外ではありません。土壌中のカビは胞子または菌糸の状態で生息し、その1gには104~106個ものカビがいると言われます。

カビの胞子は数ミクロンですから肉眼では見えませんが、発育する条件が整えば胞子から菌糸を伸ばして黒色、黄色、緑色、白色など様々な色に発育し、肉眼で容易に目に付くようになります。こうなれば消費者は、この食品は不衛生で体に害があるものと考えてしまいます。

健康被害を起こす原因微生物の多くは細菌であり、カビによる食中毒はほとんどないといっていいでしょう。しかし、カビの発育した食品は不衛生の刻印が押され、製造者は責任が問われ、経済的な損失を招くばかりでなく信用を失うことにもなりかねません。

2.食品工場とカビ

東京都の報告では1987 年から 2002年までの16年間に取り扱った苦情事例562事例のうち、カビによる苦情は菓子類が184件と最も多く、次いで嗜好飲料144件、穀類59件で、この3種が半数以上を占めます。その後の調査(2003年~2009年355事例)では、割合は減ったものの依然半数以上を占めます。これらはカビの発育条件に適した糖質が多いこと、常温で流通される種類が多く、賞味期限も比較的長いものが多いことなどが理由と考えられます。

カビの発生は工場での汚染だけでなく、消費者が購入後に汚染・増殖する場合もありますが、包装されたまんじゅうやチョコレート、未開封容器の内容物やキャップ内にカビの増殖が見られる場合は、工場内で付着したものと考えられます。

カビの種類ではクロカビ(クラドスポリウム属)、アオカビ(ペニシリウム属)、コウジカビ(アスペルギルス属)はもっとも普遍的に存在するカビであり、食品工場においても汚染の主流です。

また、食品工場でカビ汚染に注意が必要な場所として、原料食材の保管庫、蒸気が発生し高湿度になる作業場所、室内の埃が堆積しやすい空調設備、常時湿った状態になるシンクや給排水管などの水回り、結露しやすい冷蔵・冷凍室の出入り口、食品残渣が付着しやすい機械器具などがあげられます。

カビ増殖には栄養源、発育に適した温度や湿度、増殖時間が必要です。したがって、食品のカビ発生は、これらの条件が、製造、流通、販売、購入後の保管のいずれかの段階で揃ってしまった場合に起こります。食品にかかわる事業者はもちろん、消費者もカビの特性を知って防止に努めることが大切です。

私の職場ではバレンタインデーの後はチョコレートのカビ検査が増えます。思いをこめた(こめないのも)プレゼントにカビがないことを願います。

チョコレートのカビ
配管のカビ

(参考)

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