動物に使用する薬剤の食品中の残留規制とその安全性

2015年2月27日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
食品理化学検査部 朝倉 敬行

1.はじめに

我々は風邪をひいたといえばかぜ薬を、感染症にかかれば抗生物質や抗菌剤を服用します。また、病気を予防するために予防接種を受けたりもします。このように病気になった時に薬を服用して治療するのは人にとってはあたりまえのことかもしれませんが、病気になるのは人ばかりではありません。

牛や豚などの動物やウナギなどの魚介類も病気になることがあります。特に牛、豚、ニワトリなどを飼育する畜産業やウナギやエビなどの養殖業では病気の発生は飼育生物が全滅する危険性もあり、経済的にも大きな打撃となります。

また、食品安全上の問題から特段の事情がないかぎり病死した肉を食用にすることは食品衛生法で禁止されています。すなわち、家畜等から生産される畜産物などが食品として安全であることが重要です。そこで、病気が発生した時は、薬を餌などに混ぜて投与したり、注射を打つなどして治療を行うことになります。病気の予防のために投薬することもあります。

このように動物の疾病の治療や予防を目的に動物に投与される薬のことを「動物用医薬品」といいます。また、食品としての畜水産物の安全性、健全性を担保するためには、与える飼料の品質や安全性を確保しなければなりません。

そこで、飼料の品質保持や栄養成分などの補給を目的として、抗菌剤、酸化防止剤、防かび剤、ビタミン、ミネラルなどの添加物が用いられることがありますが、これらは「飼料添加物」といい、動物用医薬品とは区別されますが、共に使用方法や残留基準等の規制があります。

2.動物用医薬品及び飼料添加物の規制

動物用医薬品や飼料添加物の使用は畜水産物の生産性の向上に必要不可欠ですが、その安全性や有効性が確認されていること、また、使用方法が遵守されていることがとても重要になります。

動物用医薬品及び飼料添加物は農林水産大臣によって指定されたもののみが使用できることになっていますが、動物用医薬品を新たに登録申請する場合には、毒性評価や残留基準値の設定等が必要になります。

登録の流れですが、登録申請があれば農林水産大臣は厚生労働大臣に残留基準値の設定を依頼します。次いで厚生労働大臣の依頼を受けた「食品安全委員会」によって、安全性評価が行われ、その結果をもって厚生労働大臣の諮問を受けた「薬事・食品衛生審議会」によって、残留基準値が設定されます。

さらに、有効性、副作用、環境影響、残留性、抗生物質等にあっては耐性菌の出現等を総合的に評価し、問題がなければ農林水産大臣が指定することになります。指定された動物用医薬品は「動物用医薬品の使用の規制に関する省令」別表第1に登録され、投与する医薬品の使用対象動物,用法及び用量や畜水産物中に人の健康に影響を与える量を超えて残留しない期間として使用禁止期間が設定されます。

飼料添加物については「飼料の安全性の確保及び品質の改善に関する法律」に基づいて農林水産大臣が「農業資材審議会」の意見を聞いて指定することになっており、飼料に添加する添加物の種類、対象動物、使用方法、成分規格、表示の基準などが定められます。

これらの食品中の残留については平成15年に導入されたポジティブリスト制度が適用され、動物用医薬品及び飼料添加物のすべてに残留基準値が設定されています。さらに、食品衛生法に基づく告示、「食品、添加物等の規格基準」の中で、「食品は、抗生物質を含有してはならない。」、「食肉、食鳥卵及び魚介類は、化学的合成品たる抗菌性物質を含有してはならない。」と規定されています。これは、抗生物質等が微量に残留している食品を人が摂取した場合、感染した病原菌に対して薬剤耐性を与えるもとになり、病原菌に効果が期待できなくなるのを防止するためです。

3.動物用医薬品及び飼料添加物の種類

動物用医薬品は次の4種類に大別されます。

  1. 抗生物質:主に動物の細菌性疾患の治療や予防のために使われます。
  2. 合成抗菌剤:抗生物質と同様、動物の細菌性疾患の治療や予防に使われます。
  3. 内寄生虫駆除剤:動物の寄生虫の駆除や予防に使われます。
  4. ホルモン剤:牛の成長を促進し、肉質を柔らかくするために用いられます。

この中で抗生物質、合成抗菌剤、内寄生虫駆除剤には使用対象動物、用法・用量、使用禁止期間等が設定されています。

飼料添加物には、以下のようなものがあります。

  1. 飼料の品質の低下の防止に抗酸化剤、防かび剤、粘結剤など
  2. 飼料の栄養成分その他の有効成分の補給を目的として、アミノ酸類、ビタミン類、ミネラルなど
  3. 飼料が含有している栄養成分の有効な利用の促進を目的として、合成抗菌剤、抗生物質、呈味料など

4.安全性の確保

畜水産食品中の動物用医薬品の残留の有無については、輸入食品では港や空港の検疫所によるモニタリング検査によって実施されています。モニタリング検査の結果、畜水産食品から基準を超えて動物用医薬品が検出された場合、検疫所で回収・積み戻し・廃棄などの措置がとられます。その後に輸入される食品で、違反の蓋然性の高い食品については、製品検査(命令検査)として輸入時の検査が義務付けられます。

製品検査は厚生労働省に登録された検査機関によって検査が実施されます。また、国内流通品については、地方自治体の保健所や地方衛生研究所が収去検査を行って、違反食品の排除に努めています。

登録検査機関である(一財)東京顕微鏡院では畜水産物中の動物用医薬品の検査を受託しています。

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