種鶏の安定供給と衛生管理

2016年10月4日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
営業本部 本間 耕一

 飽食の時代と言われて久しい昨今ですが、現代の食生活は多岐に渡る食材や様々な加工品に溢れ、今では食べ方やスタイルの変化に伴い「飽食」に代わり「豊食」や「崩食」などとも揶揄されています。機能性や特定の栄養価の価値がメディア等でクローズアップされ、SNS等の影響によって一気に売れる食材や食品がある一方で一時的なブームで終わるものあり、食品業界も細かいニーズへの対応力が求められています。そんな現代でも、長年日々の食卓を支えてきたいくつかの基本的な食材が存在します。鶏肉や鶏卵はその代表格とも言える存在であり、今では必要不可欠な食材と言えるでしょう。

種鶏とは「鶏肉生産あるいは食用卵採取のため、実際に農家で飼養される鶏のこと」を指し、実用鶏という言い方をされることもあります。現在鶏肉は、国産食肉で国内生産量の第1位で、国民1人当たりの国産食肉消費量も2位の豚肉、3位の牛肉を抑え第1位となっており、鶏肉が如何に重要な食材であることが判ります。基本的には代替食材が存在しない鶏卵の需要に至っては言わずもがなで、種鶏の安定供給は養鶏産業にとっての重要かつ根幹部分を担っていると言えます。

一方で、近年の養鶏産業を巡る情勢は地球温暖化による環境変化、飼料価格の高騰、高病原性鳥インフルエンザの発生、アニマルウェルフェア(動物福祉)など厳しさを増しており、より効率的な種鶏孵化場経営を行うためには、生産段階において適切な衛生対策等により農場を清浄化しつつ生産性の向上を図り、孵化場では徹底した洗浄消毒に努める必要に迫られています。大腸菌症をはじめとする日和見感染症については、種鶏孵卵場からこれらの細菌を駆逐することは極めて困難であり、衛生管理の重要性は増大しています。基本的な手法としては、農場敷地内のオールイン・オールアウトの徹底と器具機材や給水設備の洗浄消毒、疾病の状況による消毒薬の選択と使用方法、鶏舎内の鶏と接触する部分の石灰塗布、農場敷地内への立ち入り制限等を複合的に用いることが原則となります。

養鶏産業の関係団体では、良質種鶏の安定供給システムを構築するための事業を行っており、当センターでも通常の微生物検査に加え、パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)を用いた検査で事業の一部に関与しました。PFGEとは、言わば細菌のDNA鑑定のようなもので、この技術を用いて原因菌の由来を調べることによって、感染源や感染ルートを推測することが可能になるため、合理的な衛生管理を行うことができます。当該事業では、4か所の農場から約80株の検査を実施し、系統等を確認しました。

次のチャートは実際に電気泳動を行ったもので、菌のDNAを取り出し、特定の塩基配列を認識して切断する制限酵素で処理を行うと、このようなバンドパターンが観察されます。それぞれの菌株のバンドパターン同士を比較して、お互いに近い関係にあるか否かを判断します。

PFGEは、解析に時間がかかることや検査料金が比較的に高額である等のデメリットはありますが、今後は、通常の微生物検査と並行して行うことで、様々な業界における衛生管理に少なからず貢献できると考えています。

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