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残留農薬の輸入時検査と違反事例

トピックス : 食品等の検査

2020年7月8日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
理化学検査部 技術専門係長 柏原 和広

1. はじめに

農薬の歴史をたどると、400年以上前にさかのぼります。日本では、その昔、いわゆる「虫追い」、「虫送り」といって、農家がみんなで太鼓、半鐘、たいまつ等をもち、声を出しながら田んぼのまわりを歩き、稲に付く虫を追い払ったといわれています。

江戸時代には鯨からとった油を水田に撒き、稲に付いている害虫を払い落とす方法が発明されました。また、明治・大正時代には、除虫菊(蚊取り線香と同じ成分)、硫黄などの天然由来成分の農薬が使われていました。

戦後になると、科学技術の進歩により、多くの農薬が登場し、収穫量の増大や農作業の効率化に貢献しました。しかし、レイチェルカーソンの「沈黙の春」などで、土壌や生物への残留性の高い有機塩素系農薬の使用に警鐘が鳴らされ、これらの農薬の販売禁止や制限がなされました。

現在の農薬の開発方針は、人に対する毒性が弱く、残留性の低いものへと移行しており、農薬の技術、安全性は大きく進歩しています。

しかしながら、日本の食料自給率は最新の数字で37%(カロリーベース)となっており、依然として食品の多くを輸入に頼っているのが現状です。そのため、輸入食品の検査は、食の安心・安全を確保するために非常に重要となっています。ここでは、輸入食品の残留農薬の違反事例とその原因をご紹介します。

グラフ 食料自給率(カロリーベース)の推移

2. 輸入食品の違反事例とその原因例

残留農薬が基準値を超えて食品に残留した場合、食品衛生法に違反することになります。

輸入食品の違反事例は、厚生労働省ホームページ等で随時公表されています。ここでは、過去3年間の残留農薬の違反事例から、違反の多かった主な検査項目を表1に示します。

表1 残留農薬の違反事例

以下、各農薬の特徴と違反原因について説明します。

①クロルピリホス

クロルピリホスは、2002年に中国産の冷凍ほうれん草から基準値を上回る事例が多数報告され、大きな社会問題となりました。これを契機に、日本の農薬規制であるポジティブリスト制度が整備されることになりました。

ここ数年、主にコロンビア、ガーナ産のコーヒー豆、カカオ豆からの違反が多い傾向にあります。原因は、麻袋の再利用によるコンタミネーションと推定されています。また、クロルピリホスは土壌に吸着されやすい性質をもっており、中国産のさといもからも数例の違反が報告されています。

②チアメトキサム

チアメトキサムは、ニコチンに似た成分(ニコチノイド)が構造のベースになっていることから、ネオニコチノイド系農薬に分類されています。ネオニコチノイド系農薬は、世界各地のミツバチ大量失踪の原因の一つと疑われており、EUでは既に2018年にチアメトキサムを含む3種類のネオニコチノイド系農薬の使用が原則禁じられています。

チアメトキサムは、主に中国産の玉ねぎやショウガでの違反が多く、土壌に残留していた農薬由来によるものと推定されています。

③トリアゾホス

トリアゾホスは、香辛料からの違反が多く報告されています。

トウガラシからの違反はインド、スリランカ産が大部分で、原因は日本の残留農薬基準の認識不足と推定されています。他に、フェンネル(ウイキョウ)からも数件の違反が報告されています。

香辛料は、乾燥物の場合、水分の補正が必要になる場合があります。また、香辛料は、スパイスとハーブに大別され、分類によって適用する基準値が異なるため、基準に適合しているかどうかを判定する際には注意が必要です。

一般に、香辛料は鮮烈な香りや味を持つものが多いですが、反面、分析時にはそれらの成分が妨害物質となるため、分析が難しいサンプルでもあります。当財団では前処理時に追加精製を入れることで、妨害物質を除去し、精度の高い分析を可能にしています。

また、基準値違反が疑われる場合は、より高度な装置であるガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS/MS)を使用して、検出された物質が確実にトリアゾホスであることの確認を実施しています。

④フィプロニル

フィプロニルは、2,3年前は中国産ウーロン茶からの違反が多く報告されていましたが、近年はフィリピン産バナナの違反が多くを占めています。原因は、近接農場からのドリフト(農薬飛散)による汚染と推定されています。

フィプロニルは、フェニルピラゾール系農薬に分類されますが、その作用機構は先に述べたネオニコチノイド系農薬と類似しており、ミツバチへの影響も懸念されています。そのため、フィプロニルもネオニコチノイド系農薬と同様のグループとして扱われることがあり、EUでは既に2017年にフィプロニルの登録が失効しています。

また、フィプロニルの基準値は、他の農薬と比較して低めに設定されています。それはフィプロニルのADI※(一日摂取許容量)が0.00019 mg/kg/dayと非常に低いためです。バナナのフィプロニルの基準値は0.005 ppmとなっており、分析には高感度の装置が必要となります。当財団では、高速液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)を使用して分析を行っています。

※ADI:人が毎日一生涯にわたって摂取しても健康に悪影響がないと判断される量。体重1kgあたりの重さで示される。

⑤プロメトリン

プロメトリンは、中国産あさりからの違反が継続して報告されています。プロメトリンは除草剤であり、本来であれば、あさりからは検出されることのない農薬です。中国では池の藻の除去に除草剤としてプロメトリンが使用されることがあり、それが隣接の圃場等から流入して、あさりに蓄積されたと考えられています。

プロメトリンはトリアジン系農薬に分類され、非常に水に溶けやすい性質を持っています。あさり以外の二枚貝からの検出事例も多く報告されています。

3.おわりに

世界各国では様々な農薬が使われており、現在の日本では輸入食品の残留農薬検査は欠かすことができません。食品を輸入するには検疫所に届出を行い、届出審査によって検査が必要と判断されたものは「命令検査、指導検査、モニタリング検査」等が実施されます。検査の結果、問題がなければ国内への輸入が認められます。

当財団では、登録検査機関として残留農薬検査を受託しております。本報告が食品輸入時の一助となれば幸いです。


農林水産省 <農薬の基礎知識>
https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_tisiki/index.html

農林水産省 <農薬による蜜蜂への影響について>
https://www.maff.go.jp/j/nouyaku/n_mitubati/honeybee.html

厚生労働省 <輸入食品監視業務:違反事例>
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/yunyu_kanshi/ihan/index.html


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