日常に潜む『自然毒』ってどんなもの?

2012年10月2日
財団法人東京顕微鏡院
食と環境の科学センター  豊海検査事業部 担当理事 安田和男

自然毒による中毒~季節、漁獲場所によって毒を持つ場合も~

人は生命や健康を維持するため種々の食品を摂取しますが、それらの安全確保は世界的な課題になっています。そして、原料である動物や植物は本来含有する成分として、あるいは季節、漁獲場所などによって毒を持つ場合があります。このような毒を自然毒といい、食資源の安全性を脅かすものになります。

実際、時として通常の量を摂食した際でも、急性の中毒症状を示す場合があり、自然毒食中毒と称されています。

食中毒を分類するとその原因物質により、細菌性食中毒、ウイルス性食中毒、自然毒食中毒、化学性食中毒に大別されます。年間の発生件数は、約1000件、患者数は、2~3万人で推移しています。件数に占める割合は、細菌性は60~70%、ウイルス性は20~30%、自然毒は10~15%、化学性は1%以下です。死者について見てみると、腸管出血性大腸菌などによる死者が発生する年もありますが、自然毒による死者は毎年数名が犠牲になっているのが特徴です。 

ここでは動物性及び植物性の主な毒について述べます。

動物性の自然毒~貝は季節と収穫地、フグは種類と部位に注意~

動物性の自然毒は魚介類に限られています。中毒の原因毒が、特定の地域で特定の時期に魚介類が毒化し、自身の体内に毒を蓄積する場合と、魚介類自身に何らかの生理的意義を持っている場合があります。

前者の例として、食物連鎖によって魚介類に毒が蓄積する場合として、貝毒があります。これはホタテガイやムラサキイガイ、マガキなどの二枚貝が水中のプランクトンを餌にするため、生息域や季節的に有毒プランクトンが発生すると、捕食者である二枚貝に毒が移行蓄積します。プランクトンが繁殖する5月から6月にかけて二枚貝が毒化する傾向が見られます。これまでに毒化した主な二枚貝と水域を図1に示しました。

毒としては20数成分が知られています。唇や舌のしびれ、四肢の麻痺などが見られ、重症の場合は呼吸麻痺で死亡します。下痢性貝毒も同様に食物連鎖により 二枚貝が毒化します。下痢を主徴とした消化器系障害が現れます。

図1 毒化した貝類およびそれらの検出水域
図2 主なフグの種類と、筋肉以外の可食部位

いずれの貝毒についても生産地では定期的に毒性調査を行い、一定量以上の毒を含有する貝は 出荷規制を行っています。

フグは種類により毒を持つものがあります。部位によっても毒力には大きな差があります。毒成分はテトロドトキシンで、症状は四肢の麻痺、血圧低下意識混濁となり、重症の場合は呼吸麻痺で死亡します。主なフグの種類と可食部位を図2に示しました。

後者の例として、アブラソコムツやバラムツなどの魚がグリセリド(油脂の主成分)の代わりにワックスエステルを脂質の主要成分として保有しており、一定量以上食べると猛烈な下痢を起こします。イシナギの肝臓には、多量のビタミンAを蓄積しているものもあり、頭痛、発熱などの症状を示します。

植物性の自然毒~芽生えの4・5月、きのこの季節は要注意~

植物性の自然毒は、毒が植物組織中に含まれています。

早春の芽生えの時期に、食用の植物か有毒な植物かが判別できず、誤って採取して中毒が多発しています。したがって4月~5月に多発する季節性の高い食中毒になります。

トリカブト、チョウセンアサガオ、ハシリドコロは、有毒なアルカロイドを含み、意識障害などの神経障害が現れます。

アンズ、梅、アーモンドなどの果実や種子や、輸入原料雑豆やキャッサバには、シアン配糖体を含むものがあります。シアン配糖体は自己酵素により分解されてシアン化水素を生じ中毒の原因になります。多量に食べた場合、嘔吐、けいれんなどの症状が現れます。

ジャガイモの発芽部分及び緑色部分には、アルカロイドの配糖体であるソラニンやチャコニンが含有されています。学校菜園などで収穫した未熟なジャガイモを食べしばしば中毒が発生しています。吐き気、嘔吐、腹痛などの症状が見られます。

食用きのこと毒きのこを誤認した、きのこによる中毒事件が毎年秋になると多く発生しています。近年は、年間25~75件、患者数は100~300人で推移し、死者も毎年のように発生しています。

中毒原因となる毒きのことしては、ツキヨタケ、クサウラベニタケ、カキシメジが圧倒的に多く、きのこによる中毒事件の約60%を占めています。

今後の課題

自然毒の毒成分の多くは、未だ解明されていません。今後、自然毒の毒成分の検索、毒化原因の解明、解毒方法の開発は食品衛生上大きな課題といえます。

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