ラクトフェリン等配合錠菓の摂取によるノロウイルス排出期間の短縮

2017年3月27日
伊藤武a、岡元満a、田原麻衣子a、柿澤広美a、古沢淳b、源川洋子b
a:一般財団法東京顕微鏡院
b:株式会社すかいらーく

ノロウイルスは世界各地、様々な年代で感染性胃腸炎を引き起こす主要な病原体である。その感染力は非常に強く、発症に必要なウイルス量は10-100個程度とされる。日本では冬季に流行し、発症すると腹痛、嘔吐、下痢などの症状が見られる。健常者では2-3日で症状が消失するが、小児や高齢者では嘔吐、下痢から脱水症状を引き起こすなど、症状が重篤化することがあり、特に高齢者では嘔吐物を原因とした誤嚥性肺炎や窒息により死に至ることもある。また、症状消失後も1-2週間はウイルスが糞便中に排出され続け、新たな感染の原因となる1-2)。また、感染者の一部は不顕性感染とされ、感染の自覚のない食品取扱者を介した集団食中毒が発生し3)、社会的に大きな問題となっている。年々新たな変異型が出現するなど、その影響力は増大しているにも関わらず、ワクチンや治療薬は開発の途上にあり、手洗いなどによる予防、点滴などによる対症療法が行われているに過ぎない。

1.食品取扱業におけるノロウイルス検査

 ノロウイルスを原因とする集団食中毒の多くでは、製造・調理施設の食品取扱者の糞便からノロウイルスが検出されている。このため、ノロウイルス感染者が食品に直接接触する危害を防ぐ目的で、一部の食品取扱企業では食品取扱者の糞便のノロウイルス検査が実施されている。検査で陽性と判定されると、多くの場合休職となり、大量調理施設の衛生管理マニュアルでは、陰性と判定されるまでの休職が求められている。一般的にノロウイルスの糞便への排出期間は平均1-2週間、長い場合は1ヶ月とされているため、食品取扱業では休職期間中の労働力の確保及び経済的損失が大きな課題となっている。

2.ラクトフェリンのノロウイルス感染抑制効果

 ラクトフェリンは哺乳類の乳に含まれる鉄結合性の糖タンパク質で、幅広い病原性微生物に対して感染防御作用を示すことが知られ、ラクトフェリン摂取によるノロウイルス等を原因とする感染性胃腸炎の予防効果が報告されている4-6)。そのメカニズムとして、ラクトフェリンがノロウイルスの標的細胞への付着を抑制すること、標的細胞での複製を抑制することが示唆されている7)。しかし、ノロウイルス感染後にラクトフェリンを摂取した場合の効果は未検討であった。

3.ラクトフェリン等配合錠菓のノロウイルス排出期間に対する効果

 食品取扱企業において、胃腸炎症状のみられた食品取扱者の糞便のノロウイルス検査を、症状消失3日後以降にNishimuraらが開発したRT-PCR法8)で実施した。ノロウイルス陽性と判定された食品取扱者114名を摂取群(64名)と非摂取群(50名)に分け、摂取群は1粒あたりラクトフェリン100mg、ビフィズス菌BB536 5億個、ミルクオリゴ糖(ラクチュロース)100mgを含む錠菓「ラクトフェリンプラス(森永乳業製)」を1日8粒、15日間摂取した。その結果、摂取5日目、10日目時点でのノロウイルス陽性率は摂取群で非摂取群と比較して有意に低かった(図)。このことから、ノロウイルス感染後のラクトフェリン等配合錠菓の摂取が、糞便へのノロウイルス排出期間を短縮することが示唆された。

ノロウイルス感染者の糞便へのウイルス排出期間の短縮は、食品取扱業での早期業務復帰や、家庭、保育所、高齢者施設等の集団での二次感染リスク低減につながる。今回の試験結果は、ラクトフェリン等配合錠菓の摂取がこれらの用途に役立つ可能性を示しており、今後更なる検討を進めたい。

<参考文献>
1) 杉枝正明ら.臨床とウイルス 32:189-194(2004)
2) 森功次ら. 感染症誌 79:521-526(2005)
3) K Ozawa et al. J Clin Microbiol 45:3996-4005(2007)
4) 江頭昌典. 長崎県医師会報 758:43-44 (2009)
5) H Wakabayashi et al. J Infect Chemother 20:666-671 (2014)
6) 水木将ら. 日本ラクトフェリン学会第7回学術集会 (2016)
7) 織田浩嗣. 日本ラクトフェリン学会ニュースレター 18 (2016)
8) N Nishimura et al. J Virol Nethods 163:282-286(2010)

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