食中毒を防ぐために~あなたのキッチンでできる、ちょっとした工夫

2022年6月15日
一般財団法人東京顕微鏡院
学術顧問 伊藤 武

あなたのキッチンでできるちょっとした工夫

家庭で発生する食中毒はほとんどが患者1名であることから、保健所が食中毒の原因食品調査を行っても判明しないことが多いです。特に細菌やウイルスによる食中毒では、患者からの病原菌が判明しても原因食品を明確にすることが困難です。また、家庭で発生したことを裏付けることも難しいために、食中毒統計では不明として記載しなければならないことも多いです。

家庭で調理する食肉、魚、野菜など、食材にはいろいろな食中毒を起こす病原菌で汚染されている場合があることから、実際には家庭での食中毒により多くの人びとが健康被害を受けていることでしょう。

あなたのご家庭のキッチンに焦点をあて、すぐ実践できる食中毒を防ぐためのちょっとした工夫を紹介します。

手洗いを継続する習慣

食中毒を起こすさまざまな病原菌は、購入した生の食材や調理する人の手指などについていることがあります。また、食材を汚染している病原菌が手指を介して他の食品を汚染する場合もあります。

食中毒の予防は、「手洗いから始まり、手洗いに終わる」と言われ、「手洗い」が基本です。令和2から新型コロナウイルス感染症のパンデミックに襲われ、対策の一つとしてしっかり手洗いを行うこと、アルコールによる消毒が啓発され、新型コロナウイルス感染症の発生予防に効果があったと思います。

それにとどまらず、意外なことに手洗いの効果は食中毒の発生にも大きく影響しました。飲食店や集団給食が一時業務を停止したこともありましたが、多くの人が手洗いを実行したことにより、手から食品を汚染するノロウイルス食中毒が著しく少なくなりました(図1)。

新型コロナウイルス感染症の予防対策が思わぬところで相乗効果を上げています。新型コロナ対策で覚えた手洗法を習慣にし、料理を始める前には必ずしっかり手洗いをしましょう。調理が変わるたびにも何度も手洗いを忘れずに。

食品を加熱するときの注意

ほとんどの病原細菌は熱に弱いので、十分に加熱して食べることが大切です。病原菌汚染の高い肉や魚介類は、中心まで火が通るように加熱して下さい。75℃以上、1分の加熱が基本です。牛肉など赤身の肉は、中心部が褐色に変色すれば75℃、1分の加熱となっています。ハンバーグや玉子焼きは、ふたをして加熱すると、中心部まで火が通ります(図2)。

しかし、困ったことに加熱でも死滅しない、熱に強いウェルシュ菌があります。原因食品は肉の煮物や魚の煮物、カレーライスなどです。加熱でも死なない秘密は、図3に示す「芽胞」と呼ばれる特殊な構造物です。

この芽胞は、1時間以上の加熱でもしぶとく生きています。加熱調理した食品を室温に放置すると、生き残ったウェルシュ菌芽胞が加熱調理食品の中で増殖を起こします。食品の温度が50℃に下がったところから増え始め、45℃では10分間で二倍に増え、数時間で大量のウェルシュ菌数(およそ10万個/g以上)となります。

温かく加熱した食品は温かい内に食べましょう。保存するときは、小分けにし、冷蔵庫で20℃以下に冷却し、ウェルシュ菌の増殖を抑えましょう。ウェルシュ菌の芽胞を加熱で死滅させることができなくても、菌の増殖を防止することにより予防できます。カレーを調理後そのまま一晩室温に放置することは、最も危険です。必ず冷蔵庫に保管することです。

鶏肉をシンクで洗わない

鶏肉は食中毒を起こすカンピロバクターで汚染されていることが多いです。カンピロバクターは、サルモネラやO157と異なり、少しの酸素がある環境、酸素が3-15%含まれる微好気的な環境で増殖する特殊な細菌であり、通常の食品内では増殖できません。カンピロバクターは牛や豚の腸管内にいることもありますが、鶏が最も多くもっています。O157と同様に100個程度の少量菌で食中毒を起こします。

鶏の外皮をシンクで洗浄すると、シンク内がカンピロバクターで汚染され、周りに飛び跳ね、生で食べる野菜などが汚染されると、増殖しませんが、汚染した菌量で食中毒を起こします。鶏肉は絶対にシンクで洗わないことが大切です。当然鶏肉(鶏刺しなど)やレバ-を生で食べることは最も危険ですから、必ず加熱して食べましょう。

かしこい冷蔵庫の使い方

食品中に病原菌を増やさないためには、買い物時、冷蔵や冷凍が必要な食品は最後に購入し、寄り道をしないで帰り、すぐに冷蔵庫に入れましょう。

温度の設定は、冷蔵庫は5℃以下、冷凍庫はマイナス15℃以下にします。可能な限り開閉回数を減らして、中の温度が上がらないようにすることが大切です。開閉頻度が高いと冷蔵庫の温度が上昇します。その際には厚手のビニールですだれを取り付ければ、冷蔵庫内の温度の上昇を抑えることができます。

また、肉や魚は二重にしたビニール袋に入れて収納すれば、ドリップ(細菌が含まれています)がこぼれず、他の食品や冷蔵庫を汚染せずにすみます。

冷蔵庫・冷凍庫の中の細菌は活動を休止させるだけで、死滅しておりません。冷凍品を解凍する際には、ドリップに注意。ドリップの中の細菌は生きています。ドリップでまな板、包丁、手指を介して他の食品などを汚染させないことが大切です。

包丁、まな板はここに注意

調理器具の中でも、包丁とまな板は食肉、魚、野菜、果物など各種の食材を切る時に使用する重要な道具です。こられの食材は各種の危害(病原微生物)が汚染している場合が多いことから、包丁やまな板を介して、病原菌が拡散していきます。

まな板の危害を最小限にしていくためには肉用、魚用、野菜用、果物用などに使い分けることをお勧めします。使い分けることによって、病原菌の拡散は防止できます。食肉や魚を調理した包丁、まな板などはよく洗浄、83℃以上の熱湯をかければ病原菌は死滅しますので安心です。また、塩素系漂白剤で浸したタオルでまな板や包丁を包むようにすれば、全体を漂白・殺菌することができます。

肉や魚を切るときには、キッチン用ペーパータオルをまな板に敷く、その上で切れば、ペーパータオルがドリップを吸収し、まな板や他の食品への汚染を少なくしてくれます。使用した布巾は熱湯消毒が一番よいです。流水で洗うだけでは除菌はできません。タオルよりは使い捨てのペーパータオルを使用する方が安全です。

お弁当づくりは、こんなところに注意

お弁当のおかずは、十分加熱して病原菌を殺して下さい。温かいまま詰めると保管中に細菌が増殖しやすくなりますから、完全に冷まして汁気をきってから詰めるようにしましょう。塩、砂糖、酢などで味付けを少し濃くすると、細菌の増殖を抑えることができます。

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