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「水道におけるクリプトスポリジウム等対策指針」とその検査について

トピックス : 水質検査

財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
微生物検査部 渡辺 勝男
 

はじめに

近代の水道は明治初期の赤痢、コレラなどの水系感染症の蔓延を背景に明治20年、横浜市で初めて敷設された。それ以来、高度成長期を経て平成18年には水道の普及率は97.2%に達した。大正10年には東京市と大阪市で水道水の塩素消毒が始められた。水道施設の整備が進むにともなって、乳幼児の死亡率やコレラ、赤痢、腸チフスなどの水道水を介して伝染する病気の患者数は急激に減少した。

塩素消毒を適切に行うことによって、大半の水系感染症を防止してきたが、昭和55年以降に明らかにされた、新興感染症であるクリプトスポリジウム症など、塩素に対し抵抗性のある原虫感染症が欧米で流行し、国内でも認められたため、その対策が検討されてきた。厚生労働省は「水道におけるクリプトスポリジウム等対策指針」を策定し、平成20年4月1日から原水の安全性確認として、クリプトスポリジウムの検査を義務づけた。

1. クリプトスポリジウムとは

図1:Cryptosporidium parvum

図1:Cryptosporidium parvum
(稲臣成一, 頓宮廉正, 村主節男
:寄生虫学(改定第3版)
P.340, 金芳堂, 京都(1992))

クリプトスポリジウムは、細菌やウイルスとは異なり原虫類である。自然界にはアメーバやゾウリムシのように単細胞の原生動物が多種類存在するが、他の動物に寄生して増殖するものを原虫という。ヒトに寄生する原虫にはマラリア原虫や赤痢アメーバなど、病原性があるものが何種類もある。

料水汚染で問題になる原虫は、クリプトスポリジウム以外にランブル鞭毛虫(ジアルジア)がある。いずれも水道水の塩素消毒では殺菌できない。

クリプトスポリジウムは大きさ5マイクロメートル前後で、塩素に対して極めて強い抵抗性があり、大腸菌の約69万倍も塩素抵抗性がある。現在のところ有効な治療薬は見つかっていない。

一方ジアルジアは、クリプトスポリジウムに比べて塩素耐性が低いし、有効な治療薬もある。クリプトスポリジウムは水や食べ物の中では、殻に覆われたオーシストの形で存在する(図1)。

オーシストがヒトやその他のほ乳類動物に経口感染し、小腸でスポロゾイトが飛び出し、粘膜上皮細胞に侵入して増殖する。さらにスポロゾイトがメロゾイトとなり、他の細胞に侵入して発育を繰り返す。一部のスポロゾイトは有性生殖をして再びオーシストを形成、これが便と一緒に体外に排泄され、新たな感染源となる(図2)。

図2:クリプトスポリジウムの感染環
(国立感染症研究所 感染症情報センターのウェブサイトから一部転用)
図2:クリプトスポリジウムの感染環

オーシストは水中で数か月間感染性を保持するし、冷蔵では1年以上生存するといわれている。ヒトでのこの原虫症による1日の下痢便中のオーシスト数は10億個、ウシでは100億個に達する。

100個以下のオーシストで感染が成立し、発症するため、水道水がオーシストで汚染されると、飲用している人は極めて高い確率で発症する。平成5年のアメリカ(ミルウォーキー市)の事例では、暴露を受けた住民の53%におよぶ40万人余が発症した。

2. クリプトスポリジウムによる症状と集団発生例

オーシストを取り込んでから2日~1週間の潜伏期間の後、腹痛をともなう激しい水溶性の下痢が5日~1週間ほど持続し、発熱、吐き気、嘔吐をともなう場合がある。感染者の糞便からは発症から症状消失後、数週間オーシストの排出が続く。下痢は放置しても免疫力で自然治癒されるが、免疫不全患者(エイズ患者)では免疫力が低下して、感染すると下痢がいつまでも続き、輸液を行っても効果が少なく、死に至る場合がある。また、初期感染時や幼児では症状が重く、再感染では軽症あるいは無症状で終わる場合がある。

わが国ではクリプトスポリジウム症は、感染症法においては5類感染症に指定されており、患者を診察した医療機関は保健所への報告が義務づけられている。感染症法の施行以降の報告数は毎年10例前後でそれほど多くはない。

わが国最初のクリプトスポリジウムによる集団感染例は、平成6年に神奈川県平塚市の雑居ビルで起きたもので、店舗内の従業員と客を含む461人が発症した。このとき、患者の便およびビルの受水槽と、これに隣接して設置されている汚水槽内の沈殿物から、オーシストが検出された。ついで平成8年の埼玉県越生町の集団感染で、住民の約70%近くの8,800人あまりが汚染水道水によって発症した。越生町の水道は町営の自己水系と埼玉県による受水系からなり、自己水系の浄水と第1水源である越辺川の伏流水から、オーシストが検出され、河川の汚染が指摘された。越辺川水系の浄水場の上流には、下水処理場が2か所存在する。患者から排出されたオーシストが下水、河川を通じて、再度、浄水場に取り込まれたことによりクリプトスポリジウムの循環系が形成されたものと推定された。その後、水源をすべて埼玉県の受水系に切り替え、事態は沈静化した。

最近では、平成14年に北海道で2例続けて集団感染があった。1例目は、兵庫県の高校生が修学旅行で室蘭などを訪れ、129名が症状を呈し、2例目は、札幌市内の専門学校生170名が室蘭の宿泊施設で症状を呈した。どちらの例も患者糞便中からクリプトスポリジウムが検出された。しかし、両事件でも食品、施設の使用水からクリプトスポリジウムは検出されず、感染経路が不明であった。平成16年には、日本で最初のプールを介したクリプトスポリジウムの集団感染が報告された。長野県のスポーツ施設の利用者217名が下痢や腹痛などの症状を訴えた。さらに千葉県に帰郷した患者が利用した8か所のプールのうち、2か所からクリプトスポリジウムが検出され、これらのプール利用者からも数名、患者の発生がみられた。なお、国内の水道水におけるクリプトスポリジウムおよびジアルジアの検出状況を参考として表1に示した。

表1:最近の水道水におけるクリプトスポリジウムおよびジアルジア検出状況
表1:最近の水道水におけるクリプトスポリジウムおよびジアルジア検出状況

予防法としては、(1)オーシストは浄水場で使用されている塩素消毒や、病院などで使用されている消毒剤では死滅しないが、乾燥や70℃以上の加熱で容易に死滅するため、生水を飲まないこと。(2)流行時には水道水も1分以上煮沸するか、1μm以下の清潔なフィルターがついた浄水器などでろ過してから飲むこと。(3)下痢症状のある人は風呂やプールを使用しないこと。(4)下痢便で汚染した下着などは熱湯をかけてから洗濯することなどがあげられる。また一般的予防法としては、手洗いの励行があげられる。

3. クリプトスポリジウム等の検査法

クリプトスポリジウムは人工培地で培養できないことから、形態学的にオーシストを検出する方法が一般的である。水をろ過してオーシストを濃縮し、遠心によりオーシストを分離し、集めた残渣から免疫磁気ビーズで選択的にオーシストを回収する。精製、回収されたオーシストを蛍光染色して、蛍光顕微鏡装置と微分干渉装置による観察をする(図3)。平成20年4月から当法人においても、クリプトスポリジウム検査を受託できるよう準備を始めた。

図3 クリプトスポリジウムなどの検査法
図3:クリプトスポリジウムなどの検査法

 

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