一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター 臨床微生物検査部
馬場 洋一 柿澤 広美 津藤 通孝 岡元 満 安藤 桂子 小林 理香
高橋 奈央 田原 麻衣子 加藤 明子 鈴木 智子 渡辺 由美子
根津 さゆみ 浦野 敦子 伊藤 武
1980年代頃から抗菌薬の効かない薬剤耐性菌が増加し、感染症の治療に大きな問題が生じています。このため2015年にWHOは薬剤対策のアクションプランを提言し、世界に向けて調査や制御対策を要請しました。
当法人の臨床微生物検査部では、2017年から食品従事者の健康管理として、腸内細菌検査から検出されたサルモネラ属菌の血清型ごとの薬剤耐性頻度の検討を行ってきました。今回の調査では、2019年に分離されたサルモネラ属菌200菌株を対象とし、2018年に実施した際の成績と比較検討を行いました。
供試した200菌株は48の血清型に型別されました。主な血清型として、表に示すように25菌株(12.5%)が血清型Schwarzengrundに型別され、ついでThompson 14菌株(7.0%)、Altonaが13菌株(6.5%)、InfantisおよびManhattanが12菌株(6.0%)と続きました。昨年度の調査に引き続きSchwarzengrundが最も多い血清型となりました。
グラフ 2018年と2019年に分離されたサルモネラ属菌の血清型別の比較
表 2019年に分離されたサルモネラ属菌の血清型別および薬剤耐性
対象薬剤:アンピシリン、セファゾリン、セフォタキシム、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコ-ル、コリスチン、ナリジクス酸、シプロフロキサシン、スルファメトキサゾ-ル+トリメトプリム合剤
供試した200菌株のうち81菌株(40.5%)が1剤~10剤の薬剤の耐性株でした。最も高頻度に型別されたSchwarzengrundは、供試菌株がすべて耐性株であり、3薬剤以上の多剤耐性株も20株(80.0%)ありました。またInfantis、Manhattan およびO4 ,H : i ,-についても3薬剤以上の多剤耐性株が25.0%以上認められました。耐性株の出現状況は昨年度とほぼ同等の結果でした。
2019年に分離されたサルモネラ属菌の血清型は、円グラフに示すように2018年に分離された血清型とほぼ同様でした。また、分離菌株の耐性率は、2018年の63.2%から40.5%へと減少し、3薬剤以上の多剤耐性率においても24.6%から19.5%へとやや減少しました。耐性率の高いSchwarzengrundが占める割合が22.8%から12.5%へと減少したことが、耐性率減少の原因の一つと考えられます。
今後もサルモネラの血清型と薬剤耐性の動向を継続的に調査し、薬剤耐性モニタリング事業として社会に貢献する資料を提供していきたいと思います。