一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター 臨床微生物検査部
馬場 洋一 柿澤 広美 津藤 通孝 岡元 満 安藤 桂子 小林 理香
田原 麻衣子 加藤 明子 田中 建 東 希実 渡辺 由美子
根津 さゆみ 浦野 敦子 伊藤 武
1980年代頃から抗菌薬の効かない薬剤耐性菌が増加し、感染症の治療に大きな問題が生じています。このため2015年にWHOは薬剤対策のアクションプランを提言し、世界に向けて調査や制御対策を要請しました。
当法人の臨床微生物検査部では、食品従事者から検出されたサルモネラ属菌を対象に2017年から薬剤耐性頻度の検討を行ってきました。今回、2021年に分離されたサルモネラ属菌200菌株を対象とした薬剤耐性成績を2020年に実施した際の成績と比較し検討を行いました。
供試した200菌株は46の血清型に型別されました。主な血清型として、表に示すように34菌株(17.0%)がSchwarzengrundに型別され、ついでThompson 25菌株(12.5%)、NewportおよびSaintpaulが15菌株(7.5%)、Infantisが14菌株(7.0%)で、昨年度の調査に引き続きSchwarzengrundが最も多い血清型でした。
グラフ 2020年と2021年に分離されたサルモネラ属菌の血清型別の比較
表 2021年に分離されたサルモネラ属菌の血清型別および薬剤耐性
対象薬剤:アンピシリン、セファゾリン、セフォタキシム、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコ-ル、コリスチン、ナリジクス酸、シプロフロキサシン、スルファメトキサゾ-ル+トリメトプリム合剤
供試した200菌株のうち89菌株(44.5%)が1剤~10剤の薬剤に耐性のある株でした。このうち2剤の薬剤耐性株が19菌株(9.5%)、3剤以上の薬剤耐性株が42菌株(21.0%)でした。最も高頻度に型別されたSchwarzengrundは、供試菌株34菌株すべてが耐性株であり、3薬剤以上の多剤耐性株も27菌株(79.4%)ありました。ついで検出されたThompson 25菌株は1剤以上の薬剤耐性株が6菌株(24.0%)、感受性の株が19菌株(76.0%)と感受性が多い結果となりました。このように血清型による薬剤耐性株の出現状況に著しい差異が認められ、このような耐性株の出現状況は昨年とほぼ同等の結果であり興味深い傾向でした。
2021年に分離されたサルモネラ属菌の血清型は、円グラフに示すように2020年に分離された血清型とほぼ同様でした。また、分離菌株の耐性率は2020年の40.5%から44.5%へとやや増加しました。また、3薬剤以上の多剤耐性率においては25.5%から21.0%へとやや減少しました。耐性率の高いSchwarzengrundの占める割合が18.5%から17.0%へとやや減少したことが耐性率減少の原因の一つと考えられます。
2017年から2021年までの5年間にわたり、「食品従事者から検出されたサルモネラ属菌の血清型と薬剤耐性の動向」を、薬剤耐性モニタリング事業として継続的に調査し、学会発表、論文投稿等の情報発信をしてきましたが、今年度にて本事業は終了となります。今後は、また形を変えて社会に貢献できる調査を行い、情報を提供していきたいと思います。
参考:
2019年と2020年との比較検討
2018年と2019年との比較検討
2017年と2018年との比較検討
2017年の結果