インターネット通信販売の家具から有害物質が放散

インターネット通信販売の家具から有害物質が放散~シックハウス対策の盲点~

財団法人 東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
環境検査部 技術部長 瀬戸 博

東京都がインターネット通信販売(以下、インターネット通販)の家具を対象に、ホルムアルデヒド等の有害物質の放散状況について実態を調査し、その結果が報告されました1)。報告によると、テスト室内に家具を置き、室内濃度を測定したところ、厚生労働省の定める室内濃度指針値を上回る商品が、30商品中6商品ありました。この調査の概要と浮き彫りになったシックハウス対策の問題点について解説します

調査の目的

都内の消費生活相談窓口には、収納家具(食器棚、本棚、タンス)が原因で喉や目が刺激を受けた等の相談が平成12年度~21年度の10年間で149件寄せられています。他にもベッド62件、テーブル・学習机40件の相談がありました。具体的な相談事例としては、インターネットで壁面収納家具を購入したが、届いて組み立て始めると刺激臭が強く頭痛や咳が出た。通信販売で購入した整理ダンスのいやな匂いがなかなか消えない。戸外にしばらく放置したが、数か月経過した現在もあまり変化がないなど、においに関する苦情が目立ちます。

収納家具には安価な合板やMDF2)が使用されることが多く、インターネット通販ではにおいなど実際の商品の性能が確認できないことから、主にホルムアルデヒドを対象に調査をすることになりました。
 

調査方法

テスト実施期間:平成22年9月から11月

◆テスト対象商品
インターネット通販で購入した収納家具20検体及びインターネット通販で低ホルムアルデヒドの表示を行っている収納家具10検体の計30検体としました。内訳は、食器棚10検体、本棚10検体、タンス10検体です。商品購入にあたっては、インターネット検索で上位にヒットしたサイトから5万円までの価格(5,500~49,999円)のものを選定しました。「低ホルムアルデヒド」の表示は、「低ホルム仕様」や「F☆☆☆」などの表記を対象にしました。

◆テスト室
大きさ(内寸 幅2.04m x 横4.32m x 高さ2.13m)、温度25±5℃/湿度50%以上、換気0.5回/時間
ホルムアルデヒドの測定:室内中央部の高さ1.2mで空気を採取し、厚生労働省の「室内空気中化学物質の測定マニュアル」に準拠した方法で分析しました。

 調査結果

測定を行ったところ6検体が厚生労働省の指針値(0.08ppm)を超えるホルムアルデヒド濃度となりました。全検体数は30ですから、2割が指針値を超えたということになります。表1に厚生労働省の指針値を超えた品目と室内濃度等を示します。

表1 室内濃度試験結果1) (指針値を超えた検体とその室内濃度等)

検体No. 品目 ホルムアルデヒド(ppm) 表示 価格 国産/輸入
8 本棚 0.25 7,500 表記なし
14 タンス 0.15 9,990 輸入
16 タンス 0.34 10,800 表記なし
17 タンス 0.15 14,800 輸入
19 タンス 0.093 19,980 輸入
26 本棚 0.15 F☆☆☆ 12,880 輸入

備考:分析結果はブランク値を差し引き、6畳間の広さ(24.3m3)に換算している。厚生労働省の指針値は、0.08ppm.

収納家具(食器棚、本棚、タンス)のうち、ホルムアルデヒドの室内濃度が指針値よりも高かったのはタンス4検体、本棚2検体で食器棚は該当しませんでした。このうち、「低ホルムアルデヒド」を意味する「F☆☆☆」の表示があるNo.26の本棚は実際には「F☆」程度で室内濃度も0.15ppmと高く、表示との相違がありました。
指針値を超えた検体は、価格が2万円以下に集中し、輸入品がほとんどで明らかに国産と明示されたものはありませんでした。
 

調査結果から見えてきたこと

☆インターネット通販の家具は、シックハウス対策の大きな盲点

シックハウス対策については、国は平成9年から様々な取り組みをしてきました。中でもホルムアルデヒドについては、厚生労働省が室内濃度指針値を設定し、建築基準法でも、内装用建材はホルムアルデヒドの放散量によって使用できる面積が厳しく制限されています。

一方、住まい手が持ち込んだ家具については、規制対象外ですが(社)日本家具産業振興会(旧 日本家具工業連合会)では会員企業の自主表示として、室内環境配慮マークを先の建築基準法の改正時期と同じ平成15年7月よりスタートしました。しかし、すべての家具に室内環境配慮マークが付けられているわけではなく、このような業界組織に加盟していないメーカーや輸入業者が提供する家具に問題があることがわかります。

特に低価格を売りにするようなインターネット通販の家具は、シックハウス対策の大きな盲点と考えられます。平成20年に(独)国民生活センターが木製ベッドの調査を行いましたが、比較的安価な(50,000円以下)7銘柄のうち、3銘柄で室内濃度指針値を超えていたと発表しています。今後は、ベッドについても、インターネット通販品の品質に注目する必要があります。

☆家具にもシックハウス対策としての基準が必要

今回の調査で明らかになったように業界の自主的な取り組みだけでは不十分です。ネックになっている放散試験の簡素化を含めた基準策定が早急に必要と考えられます。対象物質は、ホルムアルデヒドだけでなく、厚生労働省が策定したトルエン等の指針値物質の他、最近、指標としての有用性が注目されているTVOC(総揮発性有機化合物)3についても考慮すべきでしょう。

☆リスク管理としてのシックハウス対策の必要性

家庭用、学校用、オフィス用等の用途を問わず、家具や什器類は室内で使用されれば、ホルムアルデヒド等化学物質の室内濃度を押し上げることになります。住まい手、生徒、職員らがシックハウス症候群に罹った場合、建物そのものが原因なのか、持ち込まれた家具・什器が原因なのか、責任の所在が不明確になり、大きなトラブルになりかねません。そこで、このようなリスクを回避するため、(財)東京顕微鏡院 食と環境の科学センターでは、家具、什器を搬入する前での室内空気環境検査をお勧めしています。詳しくは当センター発行の小冊子をご覧ください。
 
なお、東京都生活文化局消費生活部生活安全課では、消費者に対し(1)通信販売により家具を購入する際は、家具のにおいが強く不快に感じた場合にどのような条件で返品できるか良く確認してから購入の手続きを進めること、(2)家具からの化学物質の放散が気になる場合は、気温の高い日に部屋を換気しながら、家具の扉や引き出しを開けておくことによりある程度濃度を減少させることができるとアドバイスしています。


1) 東京都生活文化局消費生活部生活安全課 「家具から放出される有害物質」平成23年4月
2)  MDFとはMedium Density Fiberboardの略。中密度繊維版。木材から繊維を抽出して接着剤と混合し、熱を加えて板状に成型したもの。
3) トピックス: TVOC測定を有効に活用しましょう!

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