大量調理施設衛生管理マニュアルの一部改訂について 4. 主に改訂された項目と解説(3)

財団法人東京顕微鏡院 理事、 麻布大学客員教授
獣医学博士 伊藤 武

HACCP概念に基づく重要管理事項の充実 Vol.3

(1)調理従事者の衛生管理

今回の改訂ではノロウイルス対策として前記の加熱温度を85℃、1分以上にすることと調理従事者対策に重点が置かれている。

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これまでのマニュアルでは調理従事者の定期的な 健康診断と月1回以上の検便(赤痢菌、サルモネラ及び腸管出血性大腸菌0157)とされていたが、今回の改訂では検便検査項目を変更した。すなわち、赤痢菌、サルモネラはこれまでと同様に対象病原菌であるが、今回の改訂では0157以外の腸管出血性大腸菌も含めることとされた。

腸管出血性大腸菌感染症は0157以外にも国内では約60種の血清型が関与するが、これらすべての血清型を対象とした検査は毒素遺伝子検出法によらなければならない。

現状では国内で発生頻度の高い0157、026、0111に限定することが従事者の衛生管理では重要である。

しかし、発生頻度が高いとされている026や0111による食中毒の発生頻度が明確でない。026は保育所などで毎年流行を繰り返しているが、ヒト→ヒト感染が疑われ、正確な感染経路が解明されていないこともあり、日常の調理従事者の衛生管理に026や0111を含める意義があるのか著者は疑問に思う。

下痢症や食中毒の原因究明には0157以外の腸管出血性大腸菌を含めて検査すべきであるし、食品からの腸管出血性大腸菌検査では0157と026の検査法が国から通知されている。現状では0157に主眼が置かれているが、食中毒防止や食品汚染を解明するためにも食品からの026試験を完全に実施していくことが先決であろう。

これらの混乱に対して、平成20年8月21日付けで《日本衛生検査協会》は厚労省食品安全部監視安全課に『大量調理施設衛生管理マニュアルにおける調理従事者等の検便検査に関する照会』をおこなった。厚労省の回答は「(1)腸管出血性大腸菌とは0157と026の2つの血清型を想定している。(2)026については必ずしも強制するものではなく、実施することが望ましいというものであるが、実施に際しては依頼元の判断による。(3)検査精度の保持、管理の観点から026の検査法を具体的に明示願いたいとする照会に対しては、026の検査法は現在規定はない。食品で実施されている026検査法に従つて行うのが妥当である」と回答されている。

厚労省の見解が示されたことから、大量調理施設責任者は自社の検便検査目的を明確にして判断すべきであろう。検査を受託する検査機関は精度を重視した検査法で026検査を実施することが責務である。

[ 2 ]

調理従事者等がノロウイルスを食品等に汚染することが明確にされてきたことから、ノロウイルス対策を充実させるために調理従事者等の衛生管理に下記の点が追加された。

A. 調理従事者等の検便検査に、必要に応じてノロウイルスの流行期である10月から3月についてはノロウイルスの検査を含めることが追加された。

B. 調理従事者等は便所及び風呂等における衛生的な生活環境を確保すること。ノロウイルス流行期には十分に加熱した食品を摂取することに努め、生力キなどの喫食により自らがノロウイルスに感染しないこと、徹底した手洗いを励行し、ノロウイルスを施設や食品に汚染させないこと。体調に留意し、常に健康状態を保つこと。

以上の如く、調理従事者に課せられた衛生管理は極めて厳しいものであるが、ノロウイルス食中毒対策の重点課題であるので、必ず実施していかなければならない。

C. 下痢や嘔吐などの症状がある場合についても調理従事者は医療機関を受診し、感染性疾患の有無を確認するために微生物検査を実施する。ノロウイルスに感染していることが判明した場合、調理従事者等はノロウイルスの保有の有無をリアルタイムPCR等の高感度の検査を実施すること。また、ノロウイルスを保有していないことが確認されるまでの間は、食品に直接触れる調理作業を控えるなど適切な処置をとることが望ましいとした。

糞便からのノロウイルス検査法が各種開発されてきたが、ELISA法では検出感度が低いことから感度の高い遺伝子診断法が推奨されている。ノロウイルスに感染した従業員は食品に直接接触する調理作業を禁じている。現状では多くの食品企業がノロウイルス感染者は出勤させない対策がとられているが、食品企業責任者は自社基準により調理従事者の経済的負担の軽減や職場復帰の基準を明確にすべきであろう。


※本稿は、東京電力の「電化厨房ドットコム」メルマガに2008年9月~2009年2月(10月は除く)まで連載されたものです。

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