水道水と貯水槽の衛生管理

令和2年2月26日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
簡易専用水道検査部 担当部長 井上 太

「水道水って意外とおいしい!」最近、そう感じたことありませんか?
その水道水、じつは本当においしくなっているんです。

水道水のおいしさの秘密

東京都水道局では、平成4年に金町浄水場に高度浄水処理を導入し、平成25年には利根川水系のすべての浄水場において高度浄水処理を行っています。

高度浄水処理とは、通常の浄水処理にオゾン処理や生物活性炭吸着処理を加えることにより、今まで十分に取り除くことができなかった、かび臭の原因物質や塩素処理により生成されるトリハロメタンなどを除去するものです。これにより、より安全でおいしい水を供給することができるようになりました。

さらに、この高度浄水処理された水道水をペットボトルに詰めて、『東京水』として販売されているのをご存じですか?

都庁内の売店や都の関連施設で購入することができますので、興味のある方は是非お試しください。(蛇口から出る水と同じものですが…。)

蛇口から水が出る仕組み

東京都水道局では、おいしい水の供給と並行して、直結給水化の普及・拡大を推奨しています。

水道水の給水方式には、直接蛇口まで給水する「直結給水方式」と、タンクに一旦貯留してからポンプなどで給水する「貯水槽(タンク)水道方式」があります。

通常、ビルやマンションなどでは、受水槽に一旦受けた水をポンプで屋上の高置水槽に汲み上げて、そこからの自然落差で各階の蛇口へ給水していますが、この受水槽や高置水槽の管理が十分に行われていないと、思わぬ水質汚染事故が発生してしまう可能性があります。

直結給水化は、この水質汚染のリスク低減を目的として「貯水槽(タンク)水道方式」を「直結給水方式」へ切り替えようという取り組みで、給水管に増圧ポンプや逆流防止機器を取り付けて給水します。直結給水化により、浄水場から送られた水は給水管を通り、外気に触れることなく各蛇口まで届くことになり、安全性はより確保されます。主に都内の公立小中学校などで直結給水化が進められています。

もしもの時に心強い受水槽を目指して

しかし、地震や台風などの災害により、水道水の供給がストップしてしまった場合、直結給水方式ではまったく使用することができなくなります。でも貯水槽(タンク)水道方式で貯水槽が無事に残っていれば、そこに数十トンの飲料水が蓄えられているのです。

特に学校や公共施設などは、地域の避難場所として利用されることが多く、貯水槽に残された水は、まさに命をつなぐ大切な水となる可能性があります。

平成16年に発生した新潟県中越地震では、ライフラインの寸断により水道水が使用できなくなってしまった地域で、受水槽に蓄えられていた水を利用して飲料水や生活用水を一時的に確保した、という話を耳にしたことがあります。

そうした災害時における対策として、自治体によっては、直結給水化とは逆に、貯水槽を新たに設置しようという動きもあります。

そこで重要となるのが、貯水槽の衛生管理です。日ごろから、貯水槽や水道水の衛生管理に努めていれば、いざという時に安心してその水を利用することができます。

水道水を受水槽へ一旦貯めた施設は、水槽の容量で分類されており、受水槽の有効容量の合計が10㎥を超えるものを簡易専用水道、10㎥以下が小規模貯水槽水道となります。

いずれの施設も、水道法や条例等で、衛生的に管理することが定められており、貯水槽の清掃や施設の点検、水質検査等を行う必要があります。

また、東京都福祉保健局では、望ましい管理として、①給水設備の点検・整備を月に1回、②水の外観状況(色・濁り・におい・味)の確認を毎日、③残留塩素の測定を週1回実施して、記録することを指導しています。

この望ましい管理の具体的な内容について、もう少し詳しくお話しします。

① 給水設備の点検・整備について

水が汚染されるのを防止するために、受水槽や高置水槽などの点検を月1回行い、その結果を記録します。点検で欠陥を発見したときは、速やかに改善・整備することが重要です。

主な点検の内容は、水槽周囲は整理整頓され清潔に保たれているか、水槽に破損や水漏れはないか、マンホールは密閉され施錠されているか、オーバーフロー管や通気管の防虫網は外れたり破れたりしていないか、水槽内部が汚染されていないかなどです。

② 水の外観状況の確認について

水の安全を確認するために、1日1回、透明なコップに水をくみ、水の色、にごり、におい、味に異常がないかチェックして、その結果を記録します。

水道水は無色透明であり、塩素臭以外の異常なにおいや味があってはなりません。
水の状態に異常があった場合は、その原因究明を行うとともに、管轄の保健所に相談しましょう。

③ 残留塩素の測定について

残留塩素測定器を使用して、残留塩素濃度の測定を週1回行い、その結果を記録します。

水道水は衛生確保のために塩素消毒されていますが、残留塩素が消失すると、水の中で微生物が繁殖し、水質悪化の原因となります。そのため、給水栓における残留塩素濃度は0.1㎎/L以上確保しなければなりません。

もし、残留塩素が0.1㎎/L未満の場合や、残留塩素濃度が急激に低下した場合は、水が汚染されている可能性がありますので、その原因究明を行うとともに、管轄の保健所に相談しましょう。

※上記①~③については、実施して記録を整備保存することが必要です。

記録の様式は任意ですが、当法人では「簡易専用水道の管理記録簿」を作成して、ご希望の施設へお配りしています。

わたしたちの暮らしに無くてはならない水。蛇口を開ければ、安全でおいしい飲料水をいつでも使うことができますが、水質汚染のリスクは様々な場所に潜んでいます。

だからこそ、飲料水と貯水槽の衛生管理が重要であると考えます。
あなたのマンションの受水槽や高置水槽、一度見てみたくはありませんか。

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