空気環境検査における測定化学物質名と検査方法

2016年11月8日
一般財団法人東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
理化学検査部 清水 隆浩

はじめに

 国民の健康への関心が高まっている中で、シックハウス症候群、化学物質過敏症などが話題になってきました。そこで国は、学校環境衛生の基準に係る学校保健法“学校衛生基準(文部科学省)”を作定しています。また、事務所、マンション、住宅の新築・改修工事施工前後における室内環境に関わるものとして、“住宅の品質確保の促進等に関する法律”(品確法、国土交通省)、及び“建築基準法(国土交通省)”、さらに、建築物における衛生的環境の確保に関する法律“特定建築物衛生法(厚生労働省)”などを定めています。これらの基準となる測定物質と検査方法の概要を紹介します。

測定化学物質等

 空気環境検査における室内空気環境ガイドラインとしての学校衛生基準など、各法律で規制されている測定化学物質をまとめると表1のようになります。

表1 室内空気環境ガイドラインと規制対象測定化学物質

規制対象測定化学物質名 室内濃度指針値[μg/m3・(ppm)] 学校保健法 品確法 建築基準法 特定建築物衛生法
ホルムアルデヒド ≦ 100(800)
トルエン ≦ 260(0.07)
キシレン ≦ 870(0.20)
パラジクロロベンゼン ≦ 240(0.04)
エチルベンゼン ≦ 3800(0.88)
スチレン ≦ 220(0.05)
クロロピリホス 成人:≦ 1(0.0 ppb)
小児: ≦ 1(0.007 ppb)
使用禁止
フタル酸ジ-n-ブチル ≦ 220(0.05)
テトラデカン ≦ 330(0.04)
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル ≦ 120(7.6 ppb)
ダイアジノン ≦ 0.29(0.02 ppb)
アセトアルデヒド ≦ 48(0.03)
フェノブカルブ ≦ 33(3.8 ppb)
TVOC(総揮発性有機化合物) 暫定目標値 ≦ 400

〇:検査必須、△:必要日応じて検査、☐:選択項目

表1中に記述した気体の濃度を表す単位として“μg/m3”や“ppm”及び“ppb”があります。これは、“μg/m3”が重量表示であり、“ppm”や“ppb”は体積比表示となります。
・ppm(parts per million)_百万分率(100万分の1)
・ppb(parts per billion)_十億分率(10億分の1):ppmの更に1000分の1

では、1ppmとはどんなものかを右の図で説明します。
ある空間に対しての気体の占める体積比が100万分の1の状態を濃度1ppmといいます。
 右図では、大箱1m3の空間(100万cm3)の中に、1cm3の小箱(気体)が存在します。現実的には、こんな隅っこに気体が集まっていることなく分散しているのですが、大箱の中の気体をかき集めたら小箱の体積になるイメージです。小箱(気体)の体積比は100万分の1になっていますので、気体濃度は1ppmとなります。また、1辺が1μmの小箱が存在する場合は、小箱(気体)の体積比は十億分の1になっていますので、気体濃度は1ppbとなります。

例えば、濃度が0.08 ppmとは、更にこの小箱を100分割して、そのうちの8個分の体積の気体が大箱の中に存在する状態となります。
 話が少し逸れましたが、測定化学物質の用途をまとめると表2のようになります。

表2 規制対象測定化学物質とその主な用途

規制対象測定化学物質名 主な用途
接着剤 塗料 ペンキ、塗料用シンナー 防虫剤 消臭剤 合成樹脂原料 可塑剤 防蟻剤
ホルムアルデヒド
トルエン
キシレン
パラジクロロベンゼン
エチルベンゼン
スチレン
クロロピリホス
フタル酸ジ-n-ブチル
テトラデカン
フタル酸ジ-2-エチルヘキシル
ダイアジノン
アセトアルデヒド
フェノブカルブ

検査方法

 空気環境検査における規制対象測定化学物質の値を得る工程として大きく分けて2工程があります。まず始めの工程として現場での測定目的物質の採取になります。次の工程として、検査室での機器分析となります。
 測定目的物質の採取に使用する捕集管を一部紹介します(表3)。また、採取方法にも大きく分けて“拡散方式―パッシブ法”と“吸引方式―アクティブ法”があります。

表3 測定目的物質の採取に使用する捕集管

採取法 捕集管名称 捕集管 主な規制測定化学物質
拡散方式
(アルデヒド類)
DNPHパッシブ
ホルムアルデヒド・アセトアルデヒド
TEAパッシブ
拡散方式
(VOCs)
VOCパッシブ

トルエン・キシレン・p-DCB・エチルベンゼン・スチレン
吸引方式
(アルデヒド類)
DNPHアクティブ
ホルムアルデヒド・アセトアルデヒド
吸引方式
(VOCs)
VOCアクティブ
トルエン・キシレン・p-DCB・エチルベンゼン・スチレン・テトラデカン

DNPH:2,4-ジニトロフェニルヒドラジン
TEA:トリエタノールアミン含浸シリカゲル
VOC:揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds)
p-DCB:パラジクロロベンゼン

ここで捕集方法を紹介します。
【拡散方式】
 いわゆる分子拡散原理に基づいた採取方式で、一般的にはパッシブサンプラー(表3参照)を室内の中央位置で床上1.2m付近につるし、24時間測定化学物質を吸着する方式です。
【吸引方式】
 表3に紹介した捕集管を専用のポンプに接続して、毎分1Lの流量で30分間測定化学物質を吸引・吸着する方式です。
 次に、捕集管から測定目的物質を取り出して(溶媒抽出)、測定機器で数値を得る測定方法を紹介します。大きく分けて2通りの測定方法があります。簡易測定法と精密測定法です。簡易測定法として“検知管法”などがあります。これは空気中の有害ガス濃度を簡易に誰でも測定できる方法で、各測定化学物質に対応する検知管を吸引装置に取り付け、空気を取り込む(手動または自動)時間を決めて吸引し、検知管中の検知剤が空気中の測定化学物質と反応し変色した範囲を読み取り、ガス濃度を判定します。ここでは精密測定法の分析機器を紹介します(表4)。

表4 主な規制対象測定化学物質と分析機器

主な規制対象測定化学物質 分析機器
アルデヒド類 高速液体クロマトグラフ(HPLC)法
VOCs ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)法

 この他に、VOCs測定法として加熱脱着-GC/MS法等があります。この方法はISO、EPATO 11-method、JIS法原案などに使用されている方法です。内径3 ~ 4 mmのガラス管またはステンレス管の捕集剤(Tenax TA、Carbopack B + Carboxen 1000など)を充てんしたものを捕集管とします。この捕集管に毎分50 ~ 100 mLで30分採取する方法や、また、実際に生活している状況の場合については、毎分10 mL以下で24時間採取する方法もあります。採取後、前処理なしに加熱脱着装置にセットし、加熱することにより充填剤に捕集された化学物質を離脱させ、測定目的物質をGC/MSに直接導入し、定性・定量を行う方法です。

おわりに

 多くの人々は、毎日の生活の中でビル、学校、住宅などの建築物の中で過ごしています。これらの建築物の建材や塗料、防虫剤など、また、カーテン、パソコンや生活用品の中に今回紹介した規制対象測定化学物質が含まれ、それの由来する化学物質過敏症、シックビルディング症候群が住宅での「シックハウス問題」として社会の関心を引いてきました。当院での測定検査は、指針値を超える数値があります。また、測定検査を行うことによってより多くの方々が「シックハウス問題」等悩まず、快適に生活を送れるようにお手伝いをしています。

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