話題の「においビジネス」と快適な室内環境

財団法人 東京顕微鏡院 食と環境の科学センター
環境検査部 技術部長 瀬戸 博

2010年5月18日放送の「NHKクローズアップ現代」で「広がるにおいビジネス」が取り上げられ話題になりました。今回は、快適な室内環境を確保する視点から「においビジネス」を考えてみましょう。

においビジネスの目的とは

今までもにおいに関連したビジネスはありました。それらをにおいの制御方法という点から大別すると、(1)目的にかなう良い香りの成分を添加する方法と、逆に(2)不快な臭いを除去・分解する方法(消臭ビジネス)、(3)両方を組み合わせた方法のいずれかになります。

どれもにおいへの関心の高まりとともに、急速に市場が広がっています。周辺ビジネスを含めたこれら全体が広義の「においビジネス」と考えられます が、冒頭の放送では、長引く不況の中で従来の視覚や聴覚ではなく、嗅覚に訴えかけ、イメージアップや販売促進につながるとして様々な業界から注目されてい る(1)の目的にかなう良い香りの成分を積極的に利用する方法を特に取り上げ、「においビジネス」として紹介していました。

ここまで来た!においビジネスの今

話題の「においビジネス」には、どのようなものがあるのでしょうか

まず、身の回りでは各種洗剤、石鹸、衣料用柔軟仕上げ剤が代表格で、各種の合成または天然香料が添加され、清潔感、清涼感を演出します。

航空会社では、国際線の機内で日本的イメージを体験できるように新たにアロマ(高野槇、吉野檜)、ミント、ローズマリーなどをブレンドしたオリジナルの香りを開発しています。そして、機内での好印象をにおいとともに持ち帰って、記憶に残ることを期待しているというのです。

ある自動車会社のショールームでは、環境にやさしいエコ企業としてのブランドイメージを演出するために、「四万十川のヒノキ」の香りを流し、森の澄んだ空気を来訪者に想像させる工夫をしています。 また、パチンコ店では、柑橘の香りを流し、客に気持ち良くなってもらい高揚感を高め、売り上げを伸ばそうとしています。

「機能性アロマ」と呼ばれるアロマオイルの活用も広がっています。癒し効果、抗菌や防カビ、花粉アレルゲンの失活化などの機能のほか、学習塾が記憶 力アップに利用したり、禁煙の手助けにも有効とされています。臭気火災警報器は、火災時にわさびのにおいを発生するもので、聴覚障害者に大変喜ばれているようです。

においが私たちにもたらす影響とは

最近では、様々な商品ににおいを付加することが当たり前のようになりつつあります。消費者自身 がアロマオイル、アロマキャンドル、お香などを生活の中に取り入れる傾向も高まってきています。このような際立ったにおいに囲まれた生活では、自然にある 微妙な香りの良さがわからなくなることを心配する識者もいます。においの好みは千差万別で、ある人には好ましくても別の人には不快になることもあります。

米国での1000名以上を対象にした電話による聴き取り調査で30.5%の人が他人の香料がいらだたしい、また、19%の人が芳香剤による健康への 悪影響があると報告されています。天然だから安全というわけではなく、天然物(近年では多くが化学合成されている)には生理活性が高い物質も多いのです。 公共の場所でのこうしたにおい物質の噴霧の際は、過敏な人に対して十分に配慮することが必要です。におい物質も化学物質ですから、健康への影響を科学的に 検証していくことが求められていると思います。

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