ノロウイルスの伝搬はクシャミより早い

2014.12.01

2014年12月1日
一般財団法人 東京顕微鏡院  理事 伊藤 武

ノロウイルスは人が保有する腸管ウイルスであることから、ポリオウイルスなどと同様に糞口感染症の代表的な病原微生物です。糞便に排泄されたノロウイルスは手指を介して他の人の手、ドアノブ、冷蔵庫などの取っ手、手すり、絨毯、衣類、電気などのスイッチ、玩具など生活環境に広がっていきます。また、排泄された糞便は下水処理場を通り過ぎて河川から海に流入し、プランクトンを介してカキなどの2枚貝の中腸腺に取り込まれます。

米国アリゾナ大学の微生物疫学者であるCharles Gerba博士らは手に付着したウイルスが、家庭や会社においてクシャミより早く伝搬することを報告しており、その概略を紹介します。

1.家庭内におけるウイルスの伝搬

人に無害なファージMS-2(大腸菌に感染するウイルス)を用いて、1人の成人の手指に1000万個を付着させ、このウイルスの伝搬状況を観察しました。

同じような家族構成の7家庭において休日の朝8時30分から開始し、家族は一日中家庭内で過ごしました。8時間後に台所では食台、カウンター、電子レンジノブ、台所電気など9箇所、風呂場ではドアノブ、照明スイッチなど5箇所、居間ではテレビのスイッチ、照明スイッチ、寝室ではドアと照明スイッチおよび電話器についての伝搬状況をウイルスの培養検査により調べました。8時間後、なんとほとんどの箇所からウイルスが検出され、特に人が集まる台所と居間で多く検出されました。また、すべての家族の手指からもウイルスが検出され、集団生活している場でのウイルスの伝搬のすごさが証明されました。

糞便中のノロウイルス量は1g当たり10億個であることから、糞便の0.001~0.0001g中には実験に用いた1000万個のウイルスが含まれている計算となり、ごく少量のノロウイルスが手に付いても、8時間以内に家庭内の手で触れる箇所全般に広がっていくと考えられます。
アルコール製剤による消毒効果を同様なモデルで検討してみました。8時間内に3回アルコール製剤で手の消毒を行ったところ、汚染の広がりが64.92%に減少し、手の消毒効果が認められました。

2.オフィスにおけるウイルスの伝搬

オフィスの入り口のタッチプレートにMS-2ファージを付着させて同様な実験を行ったところ、2時間以内に休憩室にあるコーヒーポット、電子レンジのスイッチ、冷蔵庫の取っ手からウイルスが検出されました。4時間後には社員の半数とオフィスで触れる箇所の半数にウイルスが広がりました。アルコール製剤の使用により汚染が39%から11%に減少し、消毒の効果が現れました。また、オフィスでの握手はウイルスの伝搬を促進する行動であることも判明しました。

ノロウイルスは環境中では数日間感染力を保持して生存していることから、ノロウイルスの伝搬を防止するためにはトイレでの手指の消毒が極めて重要であることが指摘できます。ノロウイルスはアルコールでは十分な消毒効果はありませんが、アルコール消毒によりウイルスの伝搬を少しは下げることができるでしょう。食品従事者がノロウイルスに感染しないためには、家庭においても職場と同様な手洗いとアルコール消毒薬の活用が有効であると考えられます。

(参考文献)
A.H.Tamimi, S.Carlino, S.Edomonds and Charles Gerba :
  Impact of an alcohol-based hand sanitizer intervention on the spread of viruses in home, Food Environ Virol, 2014; 6   (2): 140-144.

参考リンク

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