大量調理施設衛生管理マニュアルの一部改訂について 1. 改訂の経緯と趣旨

2021.07.15

財団法人東京顕微鏡院 理事、 麻布大学客員教授
獣医学博士 伊藤 武

大量調理施設衛生管理マニュアルは平成9年に集団給食施設、弁当屋・仕出し屋等における大規模食中毒を予防するために元厚生省が通知したもので、大量調理施設で広く活用されていた。その後、平成15年に原材料の確認が追加された。この度、平成20年6月18日に更に本マニュアルが一部改訂となり、厚生労働省から通知された。

集団給食施設のみならず、一般の飲食店でも本マニュアルに従つた衛生管理が推進されていることから、本マニュアルの趣旨と改定内容について解説する。

マニュアル作成の趣旨

国内で発生する食中毒の大部分が微生物を原因としており、化学性食中毒や自然毒による食中毒は全体の10%程度に過ぎない。しかも、微生物を原因とする食中毒は集団給食施設や仕出屋、飲食店、旅館での発生件数が多いし、大規模な食中毒が多数報告されている。厚生労働省では患者数500名以上の事例を大規模食中毒として報告している(図1、2)。

図1:原因施設別微生物による大規模食中毒(患者数500名以上)

図2:微生物による大規模食中毒(患者数500名以上)

平成元年から7年頃にはサルモネラや病原大腸菌を原因とする大規模食中毒が年間5-10事例の発生がみられた。学校給食による事例が最も多く、この間に29事例、次いで仕出し屋が10事例あり、患者数も多く、社会的影響力も高いことから、元厚生省ではこれらの大規模食中毒の制御を目的に平成8年3月に対策委員会を設置し検討を行ってきた。

さらに、同年には学校給食などを原因とする全国規模の腸管出血性大腸菌0157の大発生となった。これらのことを踏まえ、大量調理施設の衛生管理の推進が急務となり、HACCP概念に基づいたマニュアルが平成9年3月24日に元厚生省から通知された。本マニュアルは同一メニューを1回300食以上、または1日750食以上を提供する調理施設に適用することとされた。

元文部省は学校給食による集団食中毒防止を目的に大量調理施設衛生管理マニュアルに準じた学校給食衛生管理基準を平成9年4月1日に通知した。この基準は元文部省管轄のすべての学校給食施設に適用したものである。

マニュアルの推進と衛生管理の徹底

大量調理施設衛生管理マニュアルが通知されたことにより、保健所などの行政機関が集団給食施設、仕出し屋あるいは製造業などに対して積極的な衛生管理の推進がなされたし、事業者も自主衛生管理を実施されたことにより、平成10年以降は大規模食中毒は著しく減少した。

特に平成8年に全国規模で猛威を振るった腸管出血性大腸菌0157の大規模発生が阻止されてきた。一方、学校給食に関しても、学校給食衛生管理基準を遵守させるために元文部省に学校給食衛生管理推進委員会の設置や給食現場での巡回指導が推進されてきた。

これらの活動の結果、大規模食中毒の発生は著しく減少し、11年(’99)では4事例、13年(’01)は1事例にまでなってきた。特に、学校給食を原因とする食中毒の発生は平成15年(’03)以降年間5件以内にまで減少してきた(図3)。

新たに問題とすべき食中毒の増加

図4には患者数2名以上の食中毒事件数を示した。サルモネラ、腸炎ビブリオ、黄色ブドウ球菌による食中毒は暫時減少してきたが、ノロウイルス食中毒が10年に統計に計上されて以降増加し、15年(’03)では275件(患者数10、600名)、19年(’07)では344件(患者数18、520名)である。なかでも、14年(’02)の学校給食における食中毒の6事例ともノロウイルスによるものである。ノロウイルスを原因とする大規模食中毒の発生場所は学校給食、仕出し屋、飲食店、製造業である。

図3:学校給食による食中毒

大量調理施設衛生管理マニュアルや学校給食衛生管理の基準はノロウイルス食中毒が明らかにされる以前に制定された衛生管理であり、現在猛威を振るっているノロウイルスを対象としたものでなかった。ノロウイルス食中毒を撲滅していくにはノロウイルスの特性や感染経路などを踏まえた衛生管理マニュアルが必要とされた。

平成20年6月28日に通知された大量調理施設衛生管理マニュアルではこれまでに蓄積してきた高度な衛生管理にノロウイルス対策が盛り込まれた改訂となっている。次回から改定内容について解説する。


※本稿は、東京電力の「電化厨房ドットコム」メルマガに2008年9月~2009年2月(10月は除く)まで連載されたものです。

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