遠山椿吉記念 第5回 健康予防医療賞 授賞式

平成30年2月15日(木)、ホテルメトロポリタンエドモントにて「遠山椿吉記念 第5回 健康予防医療賞 授賞式」が開催されました。

 「遠山椿吉賞」は、当法人の創業者で初代院長である医学博士、遠山椿吉の公衆衛生向上と予防医療の分野における業績を記念し、その生誕150年、没後80年である 平成20年度に創設した顕彰制度です。公衆衛生の領域において、ひとびとの危険を除き、命を守るために、先駆的かつグローバルな視点で優秀な業績をあげた個人または研究グループを表彰するものと位置づけています。

 平成29年度は「健康予防医療賞」において、将来の予防医療のテーマに先見的に着手したものを重点課題としました。

 「遠山椿吉記念 第5回 健康予防医療賞」は、「健康寿命の延伸に向けた疫学研究と政策提言」という研究テーマで辻 一郎氏(東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野 教授)が受賞されました。

 また、「遠山椿吉記念 第5回 健康予防医療賞 山田和江賞」には、「地域在住高齢者の健康長寿を規定する要因を疫学研究によって明らかにする」をテーマとした冨岡 公子氏(奈良県立医科大学県民健康増進支援センター 特任准教授)が選ばれました。

「遠山椿吉記念 第5回 健康予防医療賞」を 辻 一郎氏(左)に授与。 右は当法人・医療法人の山田匡通理事長
「山田和江賞」は、 冨岡 公子氏(左)に授与。 右は当法人の山田匡通理事長

授賞式ではまず、当法人の高橋利之副理事長・公益事業担当理事が開式を行い、選考委員長の宮坂信之氏(東京医科歯科大学 名誉教授)により、選考の経緯および講評が述べられました。

山田匡通理事長は、受賞者のお二人を祝福し、遠山椿吉博士の先見性に触れ、本賞の重要性が高まっていくことへの期待を寄せました。

 続いて辻氏のご研究について、地域高齢者を対象とするコホート研究により、健康寿命の延伸に関連する生活習慣・生活行動などを解明し、健康づくりの投資効果を明らかにするなど、社会保障体制の持続可能性への貢献が高く評価されたものと、深い敬意と祝辞を述べました。

祝辞を述べる山田匡通理事長

冨岡氏のご研究については、大規模コホート研究に基づいて、早期の聴覚リハビリテーション導入による自覚的難聴の改善や、趣味活動や生きがい作りの推進などの健康長寿対策の提案を行ったことは極めて有意義であり、今後の研究成果への期待を述べました。

 そして、宮坂信之選考委員長をはじめとする選考委員の先生方が厳正な審査を行っていただいていることに、深い敬意を表しました。

 最後に、この受賞を機会に辻先生、冨岡先生がますますのそのご研究の成果を上げられるとともに、遠山椿吉賞の重要性も高まっていくことを祈念いたします、と結びました。

 山田理事長による祝辞の後、来賓として公益財団法人 宮城県対がん協会 会長 久道 茂氏が祝辞を述べられ、一般社団法人日本疫学会前理事長 磯 博康氏からの祝電の披露がありました。それに応えて辻氏、冨岡氏からそれぞれ、受賞についての挨拶があり、授賞式は終了しました。


 続いて行われた辻氏、冨岡氏による受賞記念講演会には、100名近い参列者が熱心に聴き入りました。

辻先生の受賞記念講演 「健康寿命の延伸に向けた疫学研究と政策提言」
冨岡先生の受賞記念講演 「地域在住高齢者の健康長寿を規定する要因を 疫学研究によって明らかにする」

記念講演会終了後、会場を変えて行われた受賞記念レセプションでは、選考委員の野田哲生氏(公益財団法人がん研究会代表理事・常務理事 がん研究所所長)ならびに来賓として東京逓信病院病院長の平田恭信氏、国立病院機構東京医療センター病院長の大島久二氏がご挨拶をされました。

選考委員 野田哲生氏による挨拶
来賓 平田恭信氏による挨拶
来賓 大島久二氏による挨拶

最後に及川孝光当医療法人統括所長が挨拶し、髙築勝義医療法人名誉所長の発声で乾杯が行われました。参加者は大いに交流を深め、レセプションは盛況のうちに終了しました。

及川統括所長による挨拶
髙築勝義医療法人名誉所長 の発声により乾杯
レセプション会場

開式の辞

高橋 利之 当財団副理事長、公益事業担当理事、当医療法人 理事

 開式にあたりまして、ひとことご挨拶と、式辞を述べさせていただきます。本日は大勢の皆さまにこの「遠山椿吉記念 第5回 健康予防医療賞」授賞式にご出席をいただきまして、本当にありがとうございます。

今年は第5回の健康医療賞となりますが、食と環境の科学賞と健康予防医療賞は隔年ごとですので、賞の創設からちょうど10年を経過したことになります。受賞された辻一郎先生、冨岡公子先生に心よりお祝いを申し上げます。この10年間、選考委員長をはじめ、委員の皆さま、関係者、大勢の皆さまのご支援をいただき、大変着実に発展をいたしまして、多くの応募をいただけるようになりました。本当にいろいろとご尽力いただき、ありがとうございました。

 それでは、ただ今より授賞式を開催させていただきます。

選考委員長講評より

宮坂 信之 東京医科歯科大学名誉教授

 遠山椿吉記念 第5回 健康予防医療賞の選考経緯についてお話をしたいと思います。

 今回は合計20件の応募があり、前回に劣らず非常に優れた研究課題の応募が多かったのが特色でした。評価方法としては①公衆衛生への貢献度②公衆衛生向上を図る創造性③予防医療の実践④これからの人材育成⑤論文数とインパクトファクター、この五つの視点から多角的に評価を行い、選考を進めました。

まず、若手の研究者を奨励する山田和江賞は、満場一致で冨岡公子先生が選出されました。高齢者の健康長寿を規定する健康因子を明らかにし、そのエビデンスに基づく対策の提案をされています。それは、まず第一に早期からの難聴対策を進めること、二番目は健康活動や生きがいづくりの推進をすること、三番目は社会活動の奨励をすること、そして四番目は主観的健康観の維持向上を図ることです。学術論文も質量ともに優れており、このため、山田和江賞にふさわしい研究者として選出をいたしました。

 遠山椿吉賞は、選考委員一同、慎重に審議をした結果、満場一致で辻一郎先生が選出されました。辻先生は健康寿命の延伸のために、健康日本21の策定に非常に貢献をしておられ、自らの研究成果を政策提言にまでつなげている点が、非常に高く評価されました。さらに、さまざまな大規模コホート研究および新たなゲノムコホート研究を融合した疫学研究を立ち上げ、健康寿命延伸のためのエビデンス創出を行い、その成果を政策提言を通じて疫学研究成果の実践を目指している点も注目されました。その成果はインパクトファクターの高い英文学術誌に多数発表されています。同時に辻先生は、東北メディカル・メガバンク機構の予防医学・疫学部門長としても活躍されています。

 今回も素晴らしい研究者を選ぶことができ、選考委員にとっても大きな喜びでした。あらためてお2人の先生にお祝いを申し上げ、選考委員長の経過説明といたします。

授賞式来賓祝辞より

久道 茂 宮城県対がん協会 会長

 今回の授賞式にお招きいただき、また、挨拶の機会をいただきまして、誠にありがとうございます。私は遠山椿吉賞受賞者の辻一郎教授を推薦しましたので、ことのほかうれしく思っております。

辻教授は東北大学医学部を卒業した後、リハビリテーション医学の研鑽をし、平成元年に、私が当時主宰しておりました東北大学医学部の公衆衛生学教室の助手に就任いたしました。私はがん検診の有効性評価に関する研究を中心に行っていましたので、辻教授にはその研究にも参加してもらいながら、アメリカで経験された健康寿命に関する独自の研究を続けてもらいました。それは実に辻教授の先見性のある独創的な研究で、多くの論文を書かれましたが、当時、日本でも関心が持たれていたActive Life Expectancy(活動的平均余命)という言葉がありました。これを「健康寿命」という表現で紹介し、平成10年に単行本『健康寿命』、さらには平成16年に同じく単行本『のばそう健康寿命』を世に出しました。まさに健康寿命に関する研究をリードしてきたわけです。

 現在、健康寿命の延伸はわが国にとって最も優先度の高い課題です。辻教授はそのパイオニアであると言えます。最近、第7回の改訂がされた『広辞苑』には「健康寿命」が載っております。第6回の改訂版には載っておりません。要するに新しい言葉なのですね。いかに辻教授の業績に影響力があったのかということです。

 私の教授時代には、教室に5万人規模のコホートを三つも抱えておりました。それぞれ教室のスタッフにこのコホートを任せていたのですが、宮城県大崎保健所管内のいわゆる「辻コホート」は、食事、喫煙、運動などの生活習慣のほかに、医療費が及ぼす影響をも調査する、大変ユニークなコホート研究でした。

 さらに、東日本大震災後、震災復興事業として設置された東北メディカル・メガバンク機構の15万人規模のゲノムコホート立ち上げにも貢献して、次世代型の「個別化予防」、「個別化医療」の基礎をつくり上げました。

 このように、辻教授の業績は国内外で極めて高く評価されるものであり、厚生労働省審議会の部長や委員長なども務めておりますが、わが国の疾病予防、健康増進に関する行政施策の重要な役割を担っております。自分の弟子をこのような形で、この受賞で褒めちぎるのは大変気持ちのいいものでありまして、心から感謝申し上げたいと思います。

 さて、もうお一方、山田和江賞を受賞された冨岡公子先生についても触れなければなりません。先生は大学を卒業し、医学博士を授与された後も、公衆衛生関連の研究を続けられました。特に高齢者の社会参加が健康寿命にいかに関係するか、地域住民の前向きコホート研究から多くの研究成果を生み出してきました。その成果は英語論文にまとめられ、関連学会の高い評価を得て、明治安田厚生事業団の健康医学研究助成優秀賞や、日本産業衛生学会奨励賞などを受賞されております。

 山田和江賞は、若い研究者の今後の発展を期待し奨励する意味もありますので、冨岡先生には誠に適切な賞であると思います。本当におめでとうございます。

 冨岡先生がお勤めの奈良県立医科大学県民健康増進支援センターは、奈良県民の健康寿命を10年間で男女ともに日本一にしようという目標を掲げており、高齢者の社会参加、social participationという言葉を先生はよく使っています。先生が筆頭者として書いた英語論文13本中、7本にこのキーワードがタイトルに使われております。

 先日、冨岡先生の将来の夢をお聞きしたところ、「健康寿命の仕事を発展させて、辻先生のような本賞をいただきたい」、とおっしゃいました。素晴らしいと思います。山田和江賞は将来の遠山椿吉賞の応募、受賞を妨げるものではないそうですので、どうか頑張っていただきたいと思います。

 本日は2人分の祝辞を述べさせていただきました。お二方とも、本当におめでとうございます。

受賞者あいさつ

遠山椿吉記念 第5回 健康予防医療賞

辻 一郎 東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野教授

 本日は大変身に余る光栄を賜りましたことを、両法人の方々、そして選考委員会の先生方、そしてまた、関係の皆さま方に厚く御礼申し上げたいと思います。本当にありがとうございます。

私が健康寿命の研究というものを始めましたのは、今から25年ほど前のことでございます。アメリカ留学中、初めて「健康寿命」という考えを知ったときの衝撃は、今でも忘れることはできません。その気持ちに導かれて、これまで研究を続けてまいりました。現在、健康寿命という言葉が多くの人々の知るところとなり、また、健康寿命の延伸ということが国としての最重要事項の一つに位置付けられるようになりました。それはできるだけ健康で長生きしたい、そしてできるだけ長く生きがいのある生活、人生を送りたいという人々の願いが、私どもの研究を後押ししてくれたのではないかと思っております。

 健康寿命という研究テーマについて、立ち上げから政策化まで至る一連のプロセスに常に立ち会えたことが、私にとってかけがえのない体験であり、また、研究者冥利に尽きるものと思っております。

本日ご祝辞を賜りました恩師の久道茂先生、いつも私を温かく見守ってくださり、また、いつも私を自由にしていただいて、あらためて御礼申し上げたいと思います。また、今日来ていただいております栗山先生と寳澤先生に、かつて私どもの研究室で健康寿命の研究を支えてくださったことをあらためて御礼申し上げますとともに、現在は東北メディカル・メガバンク機構の教授として、国内最大規模である15万人のゲノムコホートを立ち上げてくれたことにつきましても、私は両先生のことを誇りに思っております。本当にありがとうございます。

 また、健康寿命に関する研究、これは東北大学公衆衛生学教室が長年にわたって続けてきたものであり、本日、私は教室の皆さんを代表して賞をいただくわけです。そこで皆さんに対し、あらためてありがとう、そしておめでとうと言いたいと思います。

 本日、選考委員長の宮坂先生から、私の研究が遠山椿吉賞の理念にふさわしいものであるとおっしゃっていただき、非常に嬉しく思いました。この遠山椿吉賞の理念とは何かと私なりに考えてみますと、公衆衛生学の研究者にとり最も重要なことは、単にエビデンスをつくるということではなく、そのエビデンスからポリシーをつくり、社会を変えることではないかと考えております。

 それはまさに感染症が最も重要な健康課題であった時代において、遠山椿吉先生は顕微鏡部隊として戦われ、そして安全かつ衛生的な水道水の供給をこの東京で実現されました。まさに遠山先生は細菌学、衛生学のエビデンスに基づいて社会を変え、多くの人々を健康、かつ幸福にされたのだと思っております。先生のご功績には及びようもありませんが、私も微力ながら少子高齢化の進む日本社会をできるだけよい方向に変えていけるよう精進していく所存ですので、今後ともご指導のほどよろしくお願いいたします。

 最後に、両法人のますますのご発展、そして、本日ご参集の皆さま方のますますのご健康とご活躍を祈念いたしまして、私の受賞の挨拶に代えさせていただきます。どうもありがとうございました。

遠山椿吉記念 第5回 健康予防医療賞 山田和江賞

冨岡 公子 奈良県立医科大学県民健康増進支援センター特任准教授

 私にこのような名誉ある山田和江賞を授けてくださいました財団の皆さま、選考委員の先生方、そしてご指導いただいた細井裕司先生、車谷先生、また、私に疫学を学び、習得する機会を与えてくださった、日本疫学会の久道先生、辻先生、磯先生、そして研究にご協力くださった皆さまに心より感謝申し上げます。

今後、健康長寿の実現に貢献できるような研究を、これまで以上に精進し、辻先生のような本賞をいただけるように今後も頑張ってまいりたいと思っておりますので、どうか今後ともよろしくお願いいたします。本日は本当にどうもありがとうございました。

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