遠山椿吉記念 第4回 食と環境の科学賞 受賞者発表

遠山椿吉記念 第4回 食と環境の科学賞 受賞者

このたびは、たいへん多くの優れた研究テーマが応募されましたが、選考委員会による厳正なる審査を重ね、当法人医療法人合同の経営会議にて協議した結果、栄えある第4回遠山椿吉賞受賞者を決定いたしましたので、発表いたします。

受賞された方々には、こころよりお祝い申し上げます。

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遠山椿吉記念
第4回 食と環境の科学賞
受賞者
新田 裕史
独立行政法人国立環境研究所環境健康研究センター センター長
テーマ名
環境疫学手法によるPM2.5等の大気汚染物質の
健康影響の評価に関する研究
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遠山椿吉記念
第4回 食と環境の科学賞 奨励賞
受賞者
山口 進康
大阪大学 大学院薬学研究科 衛生・微生物学分野 准教授
テーマ名
real-time on-siteモニタリングによる
生活環境における衛生微生物学的安全の確保

研究成果の概要:遠山椿吉記念 第4回 食と環境の科学賞

受賞者新田 裕史(独立行政法人国立環境研究所環境健康研究センター センター長)
テーマ名環境疫学手法によるPM2.5等の大気汚染物質の健康影響の評価に関する研究

背景

環境疫学は大気汚染物質や各種環境汚染物質の健康影響について、その有害性の同定や曝露量-反応関係の推定などに関する科学的知見を提示することによって、環境と健康の関連性を明らかにするだけでなく、環境基準設定等の根拠となるなど、規制科学としての役割を果たしてきた。

受賞者は、環境疫学における最も大きな課題である曝露量の定量評価や多種多様な環境要因を解析するための統計手法を適用など、実施上ならびに解析上の多くの困難を内包する環境疫学研究に長年取り組んで来た。

調査・研究のねらい

大気汚染物質の種類や発生源は多様であるとともに、大気汚染物質の健康影響を疫学研究によって評価するためにはさまざまな交絡要因を考慮する必要がある。そのため、研究デザインは大気汚染度の異なる多数の地域を選び、曝露量評価の精度を上げるための環境疫学手法を検討することや交絡要因を考慮して、多様な大気汚染物質の中から目標とする大気汚染物質の健康リスクを推定できるような統計解析モデルを選択する必要がある。

調査・研究の成果

これまで、二酸化窒素をはじめとする大気汚染物質に関する疫学研究を進めてきたが、近年は幹線道路沿道住民における自動車排ガス曝露に関わる疫学研究とPM2.5及び黄砂等の越境大気汚染による健康影響に関する疫学研究を実施して、それらの知見を公表してきた。これらの研究の多くは複数の研究機関の研究者との共同研究であるが、受賞者は各研究課題で企画・解析の中心的な役割を担った。

環境省が実施した「そらプロジェクト」と呼ばれる自動車排ガス曝露に関わる疫学研究では幹線道路沿道住民における自動車排ガスへの曝露量推計モデルを開発するとともに、それらの推計値を用いて学童の喘息発症等との関連性に関する解析を行った。PM2.5及び黄砂等の越境大気汚染の短期曝露による呼吸系や循環器系への健康影響に関する疫学研究では、死亡、入院、救急搬送、呼吸機能などさまざまな指標について、主として大気汚染物質の日平均との関連性について、さまざまな統計モデルを援用して解析を行い、成果を公表した。さらに、PM2.5の長期曝露による健康影響については、疫学研究として高い評価を得ている国内のいくつかの代表的コホート研究のデータを用いて、肺がんや循環器疾患との関連性を検討した。

【 受賞対象業績の概要説明 】

特に食品の安全、感染症、生活環境衛生に対する独創性、将来性、有効性、経済性、貢献度等について

受賞者の研究業績は、国際的な学術誌に掲載されただけではなく、いずれも日本の大気汚染防止対策の立案や環境基準設定などに大きく貢献したものである。

「そらプロジェクト」は1988年の公害健康被害補償法の第一種指定地域解除において課題とされた幹線道路沿道住民の健康被害に関する調査研究として企画されたものであり、その成果は環境省における環境保健行政施策立案に貢献するものである。

PM2.5の健康影響に関する成果は、2009年の微小粒子状物質の環境基準設定の際に数少ない日本における知見として参照されるとともに、環境基準の妥当性を確認するために実施すべき調査研究として位置づけられている。また、今般の中国大陸からの越境大気汚染に関わるPM2.5問題に関連して環境省が示した「注意喚起のための暫定的な指針」づくりにあたっても、大きく貢献したものである。

研究成果の概要:遠山椿吉記念 第4回 食と環境の科学賞 奨励賞

受賞者山口 進康 (大阪大学 大学院薬学研究科 衛生・微生物学分野 准教授)
テーマ名real-time on-siteモニタリングによる生活環境における衛生微生物学的安全の確保

背景

感染症は依然として我々の生存にとって大きな脅威である。途上国では水系感染症によって子どもをはじめとする多くの命が失われており、衛生状況の改善、特に安全な水や食物の供給が必要とされている。また、環境や我々の生活様式の変化とともに、様々な感染症が新たな問題となっている。国際的な交通の発展により、多くの人と物が世界中を移動しており、コレラ等の旅行者感染症(輸入感染症)の拡大が懸念されている。

一方、身近な生活環境では、水の循環使用にともなうレジオネラ症のアウトブレイクや、大腸菌O157等による集団食中毒の発生などが社会問題となっている。生活環境における衛生微生物学的な安全の確保は、途上国のみならず先進国においても重要となっており、環境や飲食品の衛生微生物学的評価を迅速に(real-time)その場で(on-site)行なうための手法が切望されている。

調査・研究のねらい

ここ20数年の環境微生物学分野における研究の進展により、自然環境中の細菌の90%以上が通常の条件下では培養困難であることが明らかになっている。また培養法ではその検出に数日を要することから、国内外において、研究分野のみならず、産業分野や臨床分野、さらには行政分野において、培養に依存しない新手法を用いた微生物モニタリングが重要であることが認識されてきている。そこで、受賞者は「蛍光活性染色法」を着想し、様々な分野における衛生微生物学的な問題の解決のために、検討を行ってきた。

調査・研究の成果

蛍光活性染色法は生きている微生物を培養することなく蛍光顕微鏡下で数分間で検出できるバイオイメージング法であり、微生物細胞内のエステラーゼ活性を指標とする。

受賞者は本手法を1997年に開発し、水環境中の細菌を主な対象として研究を進め、基本を確立した。過去5年以内では、飲用水中の大腸菌の高精度検出やRO水調製工程における細菌モニタリングのほか、茶系飲料やミルク中の危害微生物の迅速検出に応用している。また、結核菌等の抗酸菌の迅速検出のために、二重染色法の検討を行った。

さらにその迅速性・簡便性から、日本薬局方第十五改正第二追補に参考情報「蛍光染色による細菌数の迅速測定法」として収載され(平成21年9月)、再生医療用製品の無菌試験への応用についても検討されている。また、本手法を広く普及させるにはその自動化が重要であると考え、幅・深さ数十μmの微小流路を刻んだ数cm四方の樹脂性デバイス上で微生物の検出を行うマイクロ流路システムを独自に作製した。本システムは携行できることから、微生物モニタリングを迅速に(real-time)その場で(on-site)行うことを可能にした。

【受賞対象業績の概要説明 】

特に食品の安全、感染症、生活環境衛生に対する独創性、将来性、有効性、経済性、貢献度等について

蛍光活性染色法は、環境や飲食品中の生きている微生物量を数分から数十分以内に測定でき、簡便性と迅速性を特長とする。本手法の自動化を可能とするマイクロ流路システムで使用するデバイスは安価に作製でき、使用後すぐに滅菌できることから、安全性も高い。
さらに本システムは屋外での使用も可能であることから、これまでの国際共同研究を通じて連携を深めている海外研究者の協力のもと、東南アジアの水環境における危害微生物モニタリングに関する共同研究を計画している。
また、現在NASAやESA、JAXA等の宇宙機関においては、今後の月面基地や火星の有人探査を実現するため、超長期宇宙居住における衛生微生物学的安全性の確保を重視しており、各機関のロードマップにもその旨が明記されている。そこで、JAXAとの共同研究において、国際宇宙ステーション内で微生物モニタリングを実施するための検討を続けている。

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